総選挙で中道右派連立政権が誕生

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  • 国別労働トピック:2009年11月

ドイツ連邦議会(下院)は、10月28日に首相選挙を行い、9月の総選挙で勝利を収めたアンゲラ・メルケル現首相を選出し、ケーラー大統領が首相に再任した。メルケル首相は、その後閣僚指名を行い、11年ぶりにキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と自由民主党(FDP)の中道右派連立政権が正式に誕生した。

なお、新しい連邦社会労働大臣には、前政権で防衛相を務めたキリスト教民主同盟(CDU・CSU)のフランツ・ヨーゼフ・ユング(Franz Josef Jung)氏が横滑りで起用された。これまで全く労働分野の経験がない同氏の指名は、メディアや国民を非常に驚かせた。
過去10年で最悪と言われる経済状況の中で、操短手当の財源問題など課題は山積している。今後予想される大量の失業者の出現をいかに食い止め、効果的な労働政策を策定していくのか、ユング新社会労働大臣の手腕に注目が集まっている。

新しい労働政策―CDU・CSU―FDP連立協定

連立政権の発足に先立ち、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と自由民主党(FDP)の両党は、24日、124ページに及ぶ連立協定の内容を発表し、26日に署名を行った。この連立協定書は、今後、連立政権が政策を実施していく際の基本的な考え方となるもので、署名後の修正やこの協定内容に反する政策案の提出はできない。しかし、情勢の変化や個別の政策に、ある程度の柔軟性を持たせるために、比較的緩やかな書きぶりとなっていることが多い。
以下に、連立協定書の労働政策関連部分を概観する。

  1. 方向転換した最低賃金政策
    協定書の中で、労働政策について記述がある第1章3節は、「すべての者に雇用機会を」というタイトルで始まっている。 今回労働政策に関して、最も大きな方向転換が図られたのは、最低賃金に関する部分である。社会民主党(SPD)のショルツ労働社会大臣が力を注いでいた前大連立政権時代の最低賃金政策とは大きく異なり、協定書では「われわれ(CDU・CSU―FDP)は、(労使間の)協約に関する自治を支持する。これは社会福祉的な労働経済秩序の枠の中で放棄し難い尊いものであり、国による賃金設定より優先される。また、法による統一最低賃金は、これを拒否する。」と述べている。その上で、既存の法によって定められている一部の職種に対する最低賃金については、2011年10月までの2年間に、雇用機会の喪失や経済成長を阻害する要因となっていないかなどについて再検証を行い、存続か廃止かを決定するとしている。
    また、今年4月に連邦労働裁判所が「公序良俗に反する(ほど低い)賃金は禁止する」とした差し戻し判決(注1)に沿うため、これを法律に明文化することで、今後賃金のダンピングを防止していく。
  2. ミニジョブ(注2)からリアルジョブへ
     低賃金で社会保険支払い義務が発生しない一時雇用であるミニジョブに関連する法律の改正を行う。現行の規制の緩和もしくは撤廃を行い、失業者を“ミニ”ジョブから“リアル(本当の)”ジョブに移行させるための新たなインセンティブを策定する。
  3. 失業対策と基礎保障実施業務の見直し
     社会扶助や社会保険については、第3章7節にまとめられている。この中で、失業対策については、効率性に重点を置くため、連邦雇用エージェンシーの役割を再検証し、現在実施されている業務に関する削減を含む大幅な見直しを行う。
    これまで連邦雇用エージェンシーと各州及び市町村が共同で行ってきた長期失業者に対する支援策である失業給付Ⅱ(注3)については、については実施に関する業務の整理を行う。すなわち、雇用連邦エージェンシーと地方自治体の業務の重複を省くため、実施体制の再編を行う。
  4. 育児手当の期間延長
    第3章1節では、育児手当に言及しており、これまで14か月支払われていた育児手当の支給期間を延長する。協定書では、今後は共働き世代への一層の支援強化を行い、子どもを育てやすい環境づくりを行っていくことを明記している。また、税収入から支払われている各種児童手当については、給付制度を簡略化し、その一本化を目指す。

新政権は、今後この連立協定書をもとに各個別の労働政策の遂行にあたることになる。

なお、事前に労働関係者が危機感をもって注目していたFDP側から要請が出ていた解雇保護規定の緩和については、今回の協定書には一切記述がなかった。現地メディアによると、CDU・CSUの強い抵抗があり、調整が難航し、結局合意には至らなかったとのことであるが、今後の情勢変化によっては、再び政策論議の俎上にのぼることも考えられる。

参考資料

  • CDU・CSU-FDP連立協定書"WACHSTUM.BILDUNG.ZUSAMMENHALT"、委託調査員月次報告、DEUTSCHE WELLE(09年9月29日、10月28日)、Financial Times(09年10月25日)

参考レート

  • 1ユーロ(EUR)=134.56円(※みずほ銀行リンク先を新しいウィンドウでひらくホームページ2009年11月5日現在)

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