「定年制は合法」と高等法院が判断

カテゴリー:高齢者雇用

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  • 国別労働トピック:2009年11月

定年制を容認する現行の年齢差別禁止法制がEU指令に違反するとして、高齢者問題に関する非営利団体が政府を相手取って2006年から争っていた事案で、高等法院(High Court)は9月、これを合法とする判決を下した。定年制に関する法制度の見直し作業に政府が積極的な姿勢を示していることを評価したもので、当面は現行の65歳定年制が継続されるが、近い将来に廃止もしくは年齢引き上げが実施される可能性が高まっている。

雇用と職業訓練に関して年齢を理由とする差別を禁止した2000年のEU指令をうけて、イギリスでは2006年に雇用均等(年齢)規則(Employment Equality (Age) Regulations 2006)が成立した。しかし、同規則が65歳定年制を認める内容であったことから、高齢者問題に関する非営利団体であるAge ConcernとHelp the Agedが、規則はEU指令の国内法化として不適合であるとして、規則施行に合わせて高等法院に申し立てを行っていた。高等法院は、EU指令の解釈に関して欧州司法裁判所に判断を仰ぎ、この3月には定年制は適法との判断を得た。ただし欧州裁は、定年制が適切かつ必要なものであることを証明するよう政府に求め、これに基づいて高等法院がその妥当性を判断すべきであるとしていた。これを受けて、7月から高等法院での審理が再開され、9月25日に判決が示された。

高等法院は、雇用均等(年齢)規則における定年制の容認は2006年当時の状況に照らして適法としつつも、現在は経済環境の変化や、寿命の伸長による社会保障制度への負荷の増大などの状況に鑑みて、もし現在同様の事案が生じた場合であれば違法と判断するだろう、との留保をつけ、少なくとも65歳からの引き上げによる対応の必要を示唆している。最終的に適法と判断した要因として、政府の定年制見直しに関する積極的な姿勢を挙げている。政府は、7月の高等法院での審理再開と前後して、2011年に予定していた定年制の法律上の扱いの見直し作業を2010年に前倒しで実施することを決め、さらに公務員に関する定年制の廃止(一部の上級職員を除く)を2011年までに実施する方針を示していた。

現地メディアによれば、この判決を待って雇用審判所で留め置きとなっていた年齢差別に関する申し立て数百件(2008年7月時点では260件)が棄却されるとみられる。

経営者団体の多くは、高等法院の判断を称賛している。イギリス産業連盟(CBI)は、同判決は「現在企業が(高齢労働者に関して)取っているアプローチを支持するもの」であり、「コモンセンスの重要な勝利」だとしている。またイギリス商工会議所(BCC)も、「ほとんどの企業は高年齢労働者とその蓄積された経験が自社にもたらす利益を正しく評価して」おり、自らの調査では「定年制を導入している企業は全体の4分の1に過ぎず、制度の乱用はみられない」として、判決は「正当な判断」であるとの見解を示している。

一方、労務管理の専門団体である人材開発協会(CIPD)は、「政府自身が既に定年制の終わりが近いことを認めているにもかかわらず、今回の判決によりその決断が先送りされたことで、今後さらに数千人の高年齢労働者が、労働市場の状況が改善しない中で退職を強いられることになる」と批判的だ。また、定年制廃止によりパフォーマンスが低下した労働者の解雇が困難になる、との論調に対しては、パフォーマンスの低い労働者の解雇に25年も待つ必要はなく、業績評価制度との併用すべきだとしている。

現在議会で審議が進んでいる平等法案で、年齢差別の禁止に関する措置の強化をはかるべきだ、との意見もある。人権保護のための政府機関である平等人権委員会(EHRC)は、定年制の廃止を法案に盛り込むよう政府に求めている。また、年齢による雇用差別の廃止を訴える非営利組織の年齢・雇用ネットワーク(TAEN)は、男女間の賃金格差の是正に関する措置として既に法案に盛り込まれている「賃金監査」(企業に対して、男女従業員間の賃金格差の状況について定期的に監査機関に報告することを義務付ける)制度に倣い、企業に高齢者雇用比率の提出を義務付けるべきであるとしている。

現行制度は、定年年齢に達する従業員が雇用主に対して雇用の延長を申請する権利が認められている。雇用主はこの権利について、当該の従業員が定年年齢に達する6か月前までに通知する義務を負う。延長の申請は通知を待って、かつ定年の期日の3カ月前までに行わなければならず、雇用主がこれを却下する場合、従業員にその理由を示す義務はない。政府の予定する見直し作業により、定年制の容認が原則廃止となる場合も、年齢を業務遂行上の要件とすることが客観的に正当であると認められれば、企業は定年制を維持することができるとみられるが、その基準等は不明だ。

なお、統計局の労働力調査によれば、年金支給開始年齢(男性が65歳、女性が60歳)を超える就業者数は2009年8月時点で140万人で就業者全体の5%程度を占め、就業率は12.2%となっている。特に、最近の不況で他の年齢層における就業者数が減少する中、この年齢層は女性を中心に就業者数が堅調に増加している。

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