労働時間改革の法案可決 
―週35時間制、骨抜きの声も

カテゴリー:労働法・働くルール労働条件・就業環境

フランスの記事一覧

  • 国別労働トピック:2008年8月

フランスでは、7月23日、労使交渉・合意のあり方や労働時間制度の改革を目的とした『社会民主主義の刷新および労働時間の改革をもたらす法案(projet de loi portant renovation de la democratie sociale et reforme du temps de travail)』が成立した。法定労働時間は週35時間に据え置くものの、各企業に対し、具体的な勤務時間や代替休暇について、従業員と直接交渉して決定する権利が付与される。現行では、産業別協定によって時間外労働時間の上限は定められ、それを超えることはできない。今後は、各企業内における労使交渉で合意し、労使協定が締結・発効された場合、時間外労働を増加することが可能となる(注1)。

法案では、労働時間を1年間の就業日数で規定する「年間就業日労働制」の上限も緩和した。原則、現行の218日を超えることはできないが、1日の休憩時間や週休、有給休暇に関する諸規定を遵守し、使用者と被用者との間で書面による合意を交わすことを条件として、年間就業日を最大235日とすることができる。

今回の週35時間労働制の改革については、労組だけでなく、制度を導入した社会党も強く反発した。しかし、「より多く働き、より多く稼ぐ」ことが可能な社会の構築を目指すサルコジ大統領は、「(この法案が)週35時間労働制がフランス社会・経済に与えた大きな損害を修復するための最終段階となる」とし、法案の重要性と早期成立を主張した。政府は、法定労働時間を週35時間に据え置くこと、週48時間という上限や休息時間に関する規定に関する変更はないことを強調し、労働条件の悪化にはつながらないことを訴えた。

週35時間労働制は、失業対策の一環として1998年に導入されたが、その雇用創出効果については議論が絶えなかった。INSEE(フランス国立統計経済研究所)によれば、1998年から2002年の間に35万人の雇用が創出されたものの、企業支援の補助金のために国庫負担が大幅に増大した。保守派は、「フランスの国際競争力の低下を招いた元凶」と強く批判し、サルコジ大統領も、週35時間労働制を撤廃する意向を示していた。

今回の改革では、法定労働時間の見直しはされなかった。その背景には、ユーロ導入以降のインフレに加え、最近の石油製品や食料品の価格高騰をはじめとするインフレの進展、それに伴う購買力の著しい低下が存在する。サルコジ大統領は、いきなり法定労働時間を引き上げるのではなく、時間外労働をしやすい環境を整えたうえで、まずは35時間を超える就業に対する超過勤務手当の支給によって、国民の購買力が向上するのを狙ったといわれている。こうしたことから、法定労働時間は据え置きとなったものの、週35時間労働制はもはや「骨抜き状態」とする声もある。

関連情報