堅調な雇用情勢にかげり
―統計局、雇用関連統計を発表

カテゴリー:雇用・失業問題統計

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  • 国別労働トピック:2008年8月

イギリスの雇用状況は、就業者数の記録的な伸びや失業者数の順調な減少など好調を維持してきたが、このところの金融不安や原油価格の高騰などから、長く続いた好況に陰りが見え始めており、労働市場にもその影響が表れつつある。7月に発表された求職者給付の受給者の増加数は、ここ15年で最大となった。専門家などの間では、今年から来年にかけて、大幅な失業の増加が避けられないとの予測が出ている。

雇用の伸びは減速、失業の増加が顕著に

統計局が7月に公表した雇用関連の統計によれば、雇用者数は依然として増加傾向にある。3~5月期平均の雇用者数は前の四半期(12~2月)から6万1000人増の2959万人で、統計が現在の形になった1971年以降の最高水準を更新している。就業率は74.9%で横ばいだった。一方、求人数は前期比で3万2200人減の65万5100人。流通・宿泊・飲食店業と金融・ビジネスサービス業での大幅な落ち込みを中心に、多くの産業で求人が減少したことによる。失業率は5.2%で変わらず、ただし失業者数は1万2000人増の162万人となった。また、6月の求職者給付の受給者数も、前月から1万5500人増の84万100人で、増加幅は92年以降で最大、5カ月連続の増加となった。

雇用・失業とも、2007年末までは全般的に良好な状態が続いたことから、前年比では改善しているものの、年明け以降は雇用の伸びの減速や失業者の漸増など、足踏みの状態が続いている。大きな原因は、昨年からの金融不安や原油・食料価格の高騰、持続的な高インフレなどの影響による景気の減速とみられる。6月の消費者物価指数は、前月から0.5ポイント増の3.8%、小売物価指数も4.3%から4.6%に上昇しており、政府の掲げるインフレ率の目標である2%からは乖離した状況が続いている。平均賃金上昇率も、5月までの年間の平均が3.8%(民間部門で3.9%、公共部門で3.5%)と、前月からは0.1ポイント低下したものの、高い伸びを維持している。

今後数年で失業者は数十万人急増との予測

専門家の間では、今後の経済の低迷による雇用状況の反転は免れないとの見方が強く、悲観的な予測が相次いでいる。例えば失業者の増加数について、英国人材開発協会(CIPD)は既に今年初め、2008年中に約15万人との予測を打ち出していた。また使用者団体の間でも、英国産業連盟が来年末までに20万人、英国商工会議所が同30万人の失業増との見方を示している。さらに、OECDが7月はじめに公表したエンプロイメント・アウトルックでも、2009年までに10万人の失業増と5.8%への失業率の上昇を予測している。

同様の見通しは、民間の調査団体の報告からもうかがえる。例えば、コンサルティング会社のヘイ・グループなどが6月、民間の120社に対して行った調査では、多くの企業が大幅な減収の予想から、2008年度中に平均で1.1%の従業員の削減を考えていると回答しており、経済全体では35万人の雇用減に相当するという。また、同じくコンサルティング会社のキャピタル・エコノミクス社も、2010年までに失業者は44万人増加し、失業率は8%に上昇する、との厳しい見方を示している。

これらの予測の多くは、イギリスの経済成長が来年にかけてさらに鈍化するとみており、また、これまでイギリスの経済・雇用を牽引してきたといわれる金融業で、今後さらに雇用状況が悪化するとの見方でも共通している。

ただし現在のところ、労働市場にみられる影響は緩慢だ。CIPDは、契約労働者や派遣労働者などの非正規雇用の伸びが、正規雇用者の減少をカバーするとともに、賃金水準の抑制を通じて、結果的にインフレ率の急激な上昇を抑えてきたとみている。政府やイングランド銀行は、経済のさらなる減速と失業者の増加を防ぐため、賃上げの抑制を企業などに呼びかけている。

調査会社のインカム・データ・サービス(IDS)が、3~5月期に締結された賃金協定を集計した結果によれば、賃上げ率は2~4月期の3.8%から3.5%へと低下した。主として公共部門における低下を反映したもので、政府による公共部門での賃金抑制の効果とみられる(公共部門での賃上げ率は2.7%、民間部門は3.8%)。IDSは、民間部門で依然として高い賃上げ率が維持されていることについて、一部の協定が複数年にわたる物価スライド方式であることも一因とみている。

なお、政府は既にここ数年、公共部門での賃上げをインフレ目標値である2%程度に抑制するよう労使に強く要請しているが、組合側は「実質的な賃下げ」としてこれに反発、昨年から今年にかけて、自治体をはじめ多くの公共サービス部門で労使紛争が相次いでいる。

参考

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