GMと関連会社、工場閉鎖、レイオフやスト相次ぐ

カテゴリー:労使関係

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  • 国別労働トピック:2008年8月

景気減速、原油高の影響を受け、米国自動車各社の新車販売台数は2008年に入って大型車を中心に大幅な落ち込みを見せている。このため、GMは矢継ぎ早に工場閉鎖、減産、レイオフを発表した。また、部品メーカーの労働協約改訂交渉では労組側が87日間のストライキを決行し、GM本体の生産にも打撃を与えた。GMの工場単位の労使交渉もストを含みで推移した。

景気減速と原油高響く

GMは4月29日、ピックアップトラック、SUV(Sports Utility Vehicle)の需要低下を理由として4つの工場で生産工程を削減するレイオフ計画を発表した。ポンティアック工場とフリント工場(ミシガン)、オシャワ工場(オンタリオ、カナダ)、ジャニスビル工場(ウィスコンシン)の工場を対象として、時間給従業員3550人をレイオフする。在アメリカの工場は7月14日実施、在カナダの工場については9月8日実施する予定だ。

続く5月29日には、先の人員削減計画に対して、1万9000人時間給従業員が早期退職プログラムなどに応じて、7月1日に会社を去ることになったと発表した。この人員削減計画では、7万4000人の時間給従業員のうち4万6000人に応募資格があり、生産工程従業員に対しては4万5000ドル、熟練労働者に関しては6万2500ドルの退職年金支給が提示されていた。ちなみに2006年にも同様のプログラムが実施され、3万4000人が応募している。

6月3日には、原油高による消費者の自動車に対するニーズの変化を受け、2010年までに北米の4つの工場を閉鎖すると発表。ジャニスビルのトラック工場(ウィスコンシン、従業員数2438人)を2009年までに閉鎖、モレイニ工場(オハイオ、同2284人)を2010年までに閉鎖、オシャワ工場(オンタリオ、カナダ、同2496人)のトラック工程を2009年までに削減、トルカ工場(メキシコ、同1973人)のトラック工程を2008年中に削減という内容である。ジャニスビル工場とオシャワ工場に関しては4月末に生産工程の一部削減を発表したばかりだった。

7月15日には、ホワイトカラー従業員にかかる人件費2割削減(3万2000人の人員削減)とホワイトカラー退職者向けの医療手当を削減、昨年の全国レベルの協約で設立が合意された労組運営による退職者医療基金への支払い延期などを発表した。ホワイトカラーを対象とする人員削減も含めた事業再編は2005年以来となる。

7月28日の発表では、8つの工場でトラックやSUV、11万7000台分の減産計画を実施すると発表。オハイオ州とルイジアナの工場で、9月29日の1シフトを削減(合計で時間給従業員1760人に影響)、このほか、カナダ・オンタリオ州、ミシガン州などの工場で、8月から12月までに1週間単位での生産一時休止の計画を明らかにした。

部品メーカーで87日間のスト

大手自動車メーカーでの全国レベルの労働協約改訂交渉はすでに昨年9月~11月に実施されている(当機構海外労働情報2007年10月から12月参照)。これを踏まえて、工場レベル、部品供給メーカーとの労使交渉が本格化している。

GMやクライスラーに自動車部品を供給するアメリカン・アクセル・アンド・マニュファクチュアリング・ホールディング社(以下、アメリカン・アクセル社)の協約改訂交渉が同社経営陣とUAWの間で行われたが、協約終了日時になっても合意に至らず、2月26日、ストライキに突入した。このストは5月26日まで87日間続いた。

経営側は、時間当たり73.48ドルと高水準となっている総額人件費を、業界で競争力を維持できる20ドル~30ドルの水準に抑えたいと主張した。そのために平均で時給28ドルとなっている同社の賃金水準を、競合他社のダナ社(同社でもUAW組合員が就業している)と同水準の14ドル程度への引き下げをめざした。また、退職者向けの健康保険と現役従業員向けの確定給付型の年金を廃止することを提案した。これに対して、UAW側は反発しストに突入する結果となった。

早期退職者、会社の見込み以上に

このストは5月16日に暫定合意に至り、5月22日、組合員は投票で支持した。今後4年間有効となる新契約は、アメリカンアクセルの5つの工場(デトロイト、スリーリバー(ミシガン)、バッファロー、トナワンダ、チークトワガ(ニューヨーク))で働く3650人を対象とし、次のような内容となっている。

  1. 賃金水準は平均で時給10ドルの減
    従来の時給28ドルを二階層の賃金体系とし、14.5ドル(非主要工程労働者)から18.5ドル(主要工程労働者)の水準に引き下げる。
  2. 早期退職とバイアウトプログラムの実施
    早期退職を実施するにあたり、退職後の健康保険や年金を一時金支払いによって企業側が買い取る方式をとり、将来の債務の発生を回避する。これをバイアウトプログラムと呼び、応募の条件としては、勤続10年以上の従業員の場合、一時金として14万ドル支給し、勤続10年未満では、一時金として8万5000ドル支給する。早期退職者に応じた従業員には、勤続年数に応じてさらに5万5000ドルを支給する。
  3. デトロイトとトナワンダの2つの鍛造工場閉鎖
    レイオフ対象となる従業員は760人。
  4. 従業員支出の健康保険料の導入
  5. 確定給付型年金の凍結
  6. 一時金の支払い
    協約の改訂に伴い、一時金として組合員に1人当たり5000ドルを支払う。

以上のうち賃金水準抑制によって、時間当たり総額人件費は従来の73ドルから30~45ドルに抑制されたが、経営側の目標値だった20ドル~30ドルには及ばなかった。

また、経営側は、早期退職とバイアウトプログラムの対象者の目標数を従業員総数3650人のうち2000人に置いていた。従業員はこのプログラムに応じて退職するか、あるいは会社に残るかを選択することができる。実際には、目標を上回る2200人が早期退職を受け入れた。これは従業員数の60%が早期退職に当たる。また、協約合意後の7月10日、早期退職の対象をホワイトカラー社員350人に広げると発表している。ちなみに、2006年にも早期退職プログラムが実施され、このときの従業員6000人のうち1473人が早期退職に応じた。なお、会社に留まることを選択した従業員は、時給は10ドル減額に同意した上で、2008年、2009年、2010年それぞれの7月28日に10万5000ドルを上限とする一時金の支給を受ける。経営側によれば、この一時金の拠出は平均で一人あたり9万ドルから9万5000ドルになると試算していた。

比較的多くの労働者が早期退職を選択する方が得策だと判断したといえそうだ。1994年の同社創業以来、勤務している労働者(36歳)は「私の14万ドルを頂き、立ち去るのみだ」とニューヨークタイムズ紙の記者にコメントしている。

といって、協約の合意内容について、多くの労働者は満足していない。ある専門家によれば、今回の協約交渉はUAWが過去30年行ってきた交渉の中で最も厳しいものである。協約成立一時金として5000ドルが支給されるものの、87日もの長期のストライキに要した額を補填するには半分にも満たない。ある熟練労働者(57歳)は、「暫定的な合意に不満でも、投票でノーを投じても、何も残らない。工場が閉鎖されるだけだ」と語り、次の職場を見つけてバイアウトプログラムに応募したいと付け加えた。またオペレーターである他の労働者(38歳)は昨年のニューヨーク州バッファローの工場閉鎖に伴ってデトロイトに転勤してきたばかりだ。「ここにいる多くの人々は、自身の生活スタイルを変えざるを得なくなっている。投票ではノーを投じたいが、家族のことも考えなければならない」と語った。

スト、GMの生産を直撃

アメリカン・アクセル社のストにより、同社は1億2500万ドルから1億3000万ドルを損失したという。また、ストの影響はGM本体に及んでいる。スト開始直後、部品供給が止まったために2月28日に、GMはミシガン州ポンティアック工場でのトラック生産を中止した。その後北米の32工場で操業停止や縮小に追い込まれ、4~6月期だけで18億ドル分の損失、23万台の減産を余儀なくされた。ちなみに前回の2004年の協約交渉の際にも、協約有効期限までに新協約の合意に至らず、ストに突入しているが、このときは35時間後には合意に至っている。

UAW関係者は否定しているが、アメリカンアクセル社のストに呼応するように、工場レベルでの協約改訂中のGMでストが決行された。このような動きは、マサチューセッツ州クラーク大学のチェイソン教授によると、アメリカンアクセル社の支援する動きであり、売れ筋車種の最新モデルを生産する工場の絞った効果的なストの実施である。

GMの工場単位の交渉でもスト

GMの工場単位での労働協約交渉が進められており、ミシガン州ランシング近郊のデルタ・タウンシップ工場とカンザス州フェアファックス工場では、交渉期限になっても成立せず、ストに突入した。フェアファックス工場は、GM社製で最も人気のある車種、シボレーマリブ、しかもフルモデルチェンジした2008年車種を生産する工場であり、デルタ・タウンシップ工場は、GM社販売台数上位を占めるサターン、GMCアカディア、ビュイックエンクレイブを生産する工場である。両工場ともGM社にとって重要な生産拠点でのストとなった。

デルタ・タウンシップ工場ではGMとUAWローカル602支部との間での交渉は期限が来てもまとまらず、4月17日から5月15日まで28日間のストが決行された。主な争点は、苦情処理、就業規則、下請けに関すること、非組合員の作業内容、配置転換、見習工の処遇、熟練労働者の作業内容とされていた。

UAWローカル602の支部長は、今回の協約改訂を「職の抱え込み(job ownship)」から「職の分かち合い(job sharing)」への変換と位置づけられるとしている。合意された新協約の特徴は、チームリーダーの権限の拡大にある。チームリーダーは正規賃金水準に時給で1ドル上乗せする(従来の協約では50セント)。チームリーダーには従来の職務責任に加えて、4人から6人のチームメンバーを調整する責任が与えられ、人員不足の支援にもあたる。また、組み立てラインの掲示板やデータの管理にも責任をもつようになる。5月16日に投票が実施され、2300人の組合員のうち74%が合意内容に賛成し成立した。

フェアファックス工場では5月5日から5月21日まで17日間のストが決行された。争点となった課題の詳細は未詳だが、工場での経営管理、雇用保障、先任権についてなど、少なくとも9つの未解決項目があったとされている。締結された新労働協約は、時間給従業員約2500人を対象としている。

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