保険料拠出期間の延長が柱
―公的年金制度改正、政労間の協議開始

カテゴリー:高齢者雇用労使関係

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  • 国別労働トピック:2008年5月

公的年金の制度改正を2008年に実施する予定のフランスでは、政府と労組による協議が3月27日から始まった。フルペンション(年金の満額)受給に必要な保険料拠出期間を現行の40年から41年に延長するというのが、今回の改正の大きな柱。労組側は抵抗をしているものの、財政状況の悪化という現実を前に「中高年の雇用が確保されるのであれば改正はやむを得ない」という声が上がるなど、足並みにやや乱れがみえ始めている。

2008年の改正に向けて

フランスの公的年金制度は、職業・階層別に分立しており、そのうち私企業部門の商工業被用者(民間部門)を対象とした「一般制度」の加入者数が最大である。公的年金制度には、この他に国家公務員を対象とした「国家公務員制度」、地方公務員を対象とした「地方公務員制度」、農業被用者を対象とした「農業社会保障共済組合」、さらに、公共部門の職員のなかでも、国鉄職員やパリ交通公団職員、電力・ガス公社職員、鉱山労働者、休日出勤の多いオペラ座の職員などを対象とした「特別制度」がある。こうした準公的セクターに属する人々は「重労働者」とみなされ、保険料拠出期間が軽減されている。

日本と同様に高齢化が進むフランスでは、賦課方式による公的年金制度の財政均衡が以前より大きな課題となっていた。1993年には、民間部門のフルペンション受給に必要な保険料拠出期間を37.5年から40年にひき伸ばす制度改正を実施した。続いて1995年には、公的部門(「国家公務員制度」「地方公務員制度」「特別制度」)の拠出期間を民間と同等とする案を政府は提案した。しかし、労組が猛反発して大規模ストライキを実施し、この提案は実現しなかった。

この公的部門の拠出期間延長は、2003年の制度改正で実現し、民間と公的部門の足並みがそろった。ただし、公的部門のうち「特別制度」は例外とした。同年の改正では同時に、「2008年に、公的年金制度の保険料拠出期間を公務員、民間部門ともに40年から41年に延長すると同時に、財政状態を引き続き検証し、4年ごとに制度改正を実施すること」と法律(通称:フィヨン法)で定めた。こうしたことから今回の制度改正は、2003年の法律に基づくものであり、既定事項であると政府は主張しているが、労組側はこれに反発している。

労組側は反発

CFDT(フランス民主労働同盟)は、「まず中高年の就業率を向上させてから、保険料の拠出期間の延長は実施すべきだ」と主張している。CFE-CGC(管理職組合総同盟)も、中高年の明確な雇用増がない状態では、保険料拠出期間を延長しても意味がないと反発。55~64歳の就業率は約38%という低さであり、低迷が続いている中高年の就業率を引き上げる政策を先に実施すべきだと主張している。

また、一部の労組は、公的年金制度の財源を確保するために、保険料の新たな賦課や課税の強化を提案した。例えば、CGT-FO(フランス労働総同盟・労働者の力)は、法人利益のうち投資に回さない分に課税を強化することを提案。CFDTやCGT(フランス労働総同盟)は、資産収入にかかる課税の強化や、賃金以外の全ての報酬を保険料賦課対象とすべきだと主張している。

抗議運動、足並みそろわず

こうしたなか、CGTとFSU(統一労働組合連合)、連帯労働組合ユニオンは、政府の年金制度改革に圧力をかけるため、3月29日にフランス各地でデモ行進をするよう呼び掛けた。しかし、CFDTは「政府の正式な改革案がまだ不明である」として、この日の抗議運動には参加しなかった。また、CGT-FOも保険料拠出期間の延長に反対の意を示しつつも「抗議するには、まず労組間の団結が必要であり、現段階では労組全体の方針が固まっていない」として、抗議運動への参加を見送った。

結局、3月29日のデモは、パリでも主催者発表で1万人から1万5千人(警察発表で4600人)程度の参加にとどまった。その他ボルドーやリール、リヨン、トゥールーズなどフランス各地の大・中都市でも実施されたが、各地で1000人程度(警察発表)が参加したに過ぎなかった。CGTは「抗議運動は、これから拡大していく」と強気の姿勢をみせていたが、4月16日のデモも前回と同規模にとどまり、労組の足並みにはやや乱れが見え始めている。

一方、MEDEF(フランス企業運動)やCGPME(中小企業経営者総連盟)などの経営者団体は、保険料拠出期間の延長について「議論の余地などない」と政府の制度改正案を支持している。MEDEFは、保険料拠出期間の延長だけでなく、公的年金制度の支給開始年齢を現行の60歳から引き上げることも提案している。手工業者の団体であるUPAは、保険料拠出期間の延長が「段階的に行われている」ことに賛意を示すとともに、中高年の雇用状況を改善する方策が必要であるとの認識を明らかにしている。

政府、強い決意表明

労働・社会的関係・家族・連帯省では、「なぜ2008年に年金改革を実施するのか」と題し、ベビー・ブーム世代が年金受給年齢に達し、老齢年金の財政状況が悪化していること、2003年のフィヨン法で年金制度について4年ごとに見直しを行う原則を定めていることを詳細に説明し、人々の理解を求めている。

ベルトラン労相もマスコミに対し「公的年金制度の財政状態は悪化しており、保険料拠出期間の延長なしには、フルペンション受給はありえない」と強調し、今回の改正はなんとしても実施するという決意を改めて表明した。政府は、具体的な改正内容を労使に正式に提案し、今夏までには改正に係る法律の制定を目指す。

なお、こうした改革に関連し保険料の拠出期間が据え置きになっていた「特別制度」について、サルコジ大統領は2007年10月、「2012年までに『特別制度』も現行の37.5年から40年に引き伸ばす」という改革案を発表し、労組は猛反発し大規模ストを実施した。この「特別制度」の改革も含めて、政府の公的年金制度改正の行方が注目される。

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