2008年は「メガ賃金イヤー」
―労組、高い賃上げ要求で攻勢

カテゴリー:労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2008年3月

2008年の賃金交渉は、好調な経済とインフレを背景に、労働組合が軒並み高い賃上げを要求している。昨年春から続くドイツ鉄道と鉄道運転士組合の労使紛争は、最大31%の賃上げ要求に対し、最終的に11%で妥結した。公共サービス部門労働者約130万人を対象とする労使交渉は、労組が8%の賃上げを求めて断続的な警告ストライキを実施したが、使用者側が妥協せず、労使双方が指名した調停人による調停手続きに移行した。鉄鋼産業の労使交渉は、8%の賃上げ要求に対し、15年ぶりとなる5.2%(13カ月間)の高い賃上げで妥結した。秋に交渉が予定されるIGメタル(金属産業労組)は2008年を「メガ賃金イヤー」と位置付け、攻勢を強めている。

連邦政府、2008年も1.7%の経済成長を予測

ドイツは、2006年に2.9%、2007年に2.5%の経済成長を記録した。連邦政府は2008年も1.7%の経済成長が持続すると予想している。グロス連邦経済相は、最近の金融市場の混乱や株価の下落にもかかわらず、ドイツ経済の先行きに自信を示している。企業の新規受注が好調で、経済ファンダメンタルズは安定しているという。

2月の失業者数は前年同月より63万人少ない361万7000人、失業率は前年同月より1.6ポイント低い8.6%であった。暖冬と機械・自動車に対する世界的需要により2月としては15年ぶりの低失業率となった。今後も雇用情勢の改善が続くと見られている。

2007年平均のインフレ率は2.2%と1994年以来の高水準となった。2008年1月及び2月のインフレ率も、エネルギーや食品の価格上昇により2.8%の高率を記録した。

鉄道運転士労組、11%の賃上げで妥結

2007年のドイツ鉄道(DB)の賃金交渉で、7%の賃上げを要求したドイツ鉄道労組(トランスネット、組合員約27万人)とドイツ鉄道職員労組(GDBA、組合員約7万人)は7月、4.5%の賃上げを2008年1月に実施することで使用者側と合意した。しかし、鉄道運転士労組(GDL、組合員約3万人)は、他国の運転士に比べて賃金水準が低すぎるとして、最大31%の賃上げと別個の賃金協約締結を求めて、断続的なストを実行しつつ、交渉を続けてきた。使用者側は10月、労働時間の延長を条件に2008年1月に最大10%の賃上げと2000ユーロの一時金支給を実施する案を提示した。GDLはこれを拒否し、11月半ばに約62時間に及ぶ全国ストを断行した。ドイツの交通システムを大混乱に陥れたこのストは国内経済に数千万ユーロの損害を与えたといわれている。その後もGDLが無期限スト突入を発表するなど、労使交渉は膠着状態のまま越年し、1月31日にようやく仮合意が成立した。合意内容は、(1)ドイツ鉄道とGDLが独自の賃金協約を締結(2)2007年1月~2008年2月28日の期間分として、800ユーロの一時金を支給(3)2008年3月1日に8%、9月1日に3%の賃上げを実施(4)2009年2月1日から週労働時間を41時間から40時間に短縮――などである。しかし、使用者側は3月3日、GDLがまずトランスネット、GDBAを含む基本賃金協約に合意しない限り、GDLとの個別賃金協約には署名しないと主張し、紛争が再燃した。GDLはこれを拒否し、3月10日から無期限ストに突入すると発表したが、使用者側が基本賃金協約の要求を取り下げたため、3月9日に最終的な合意が成立した。

公共サービス部門労組、8%の賃上げを要求

連邦及び地方自治体の公共サービス部門労働者約130万人を対象とする労働協約は2007年12月31日に満了した。統一サービス労組(ヴェルディ)とドイツ官吏労働組合(DBB)は1月初め、1992年以降で最も高い12カ月間で8%(最低月額200ユーロ以上)の賃上げを要求した。これに対し使用者側は、2年間で3段階に分けて実施する5%の賃上げ及び週労働時間の38.5時間から40時間への延長を回答した。労組側は、年率3%のインフレが予想されるなか、組合員はこのような低水準では生活水準を到底維持できず、回答は要求の半分にも満たないとして、これを拒絶した。ヴェルディとDBBは、2月14日から22日まで全国の公立病院や保育所、交通機関などで警告ストを実施し、約18万人の労働者が参加した。2月25日に実施された4回目の交渉でも労使双方の歩み寄りは見られず、労組側は3月4日、5日に空港、地下鉄、バス、保育所、ゴミ収集、病院、看護施設、図書館、劇場などで警告ストを実施し、使用者側が譲歩しない場合、無期限ストも辞さないと脅しをかけた。しかし、3月6日、7日に行われた5回目の交渉でも使用者側が労働時間の延長を主張し、交渉は決裂した。ドイツの法律は、労働組合が全面的なストを実施する前に、労使が徹底的に話し合いを行うことを義務づけている。労使はそれぞれ調停人を指名し、3月末を期限に全面ストを回避するための調停手続きが行われることとなった。

鉄鋼労使、5.2%の賃上げで妥結

西部ドイツ4州の約8万5000人の鉄鋼労働者を対象とする賃金交渉は、IGメタルが8%の賃上げを要求した。これに対し使用者側は、当初16カ月間で3.5%の賃上げを回答。IG メタルは、この水準では低すぎるし、協約期間も長すぎるとしてこれを拒絶した。組合側は2月初め、ノルトライン・ヴェストファーレン州、ニーダー・ザクセン州、ブレーメン州において、約1万人が参加する時限ストを実施した。鉄鋼労使は2月20日、10時間に及ぶ交渉の末、5.2%の賃上げ及び200ユーロの一時金支払い(2月)で合意した。協約期間は3月1日から2009年3月31日までの13カ月間である。

ショルツ連邦労働社会相は、鉄鋼労使の合意を受けて、「過去数年の控え目な賃金上昇とそれに続く2年の力強い成長の後、今はより顕著な賃上げが必要である」と述べた。IGメタルのフーバー委員長は、「鉄鋼産業の過去数年の好業績に貢献した鉄鋼労働者に正義をもたらすよい合意内容であった」と評価した。ドイツ使用者団体連盟のフント会長は、「使用者側は損害を被るストライキを回避しなければならなかった。この合意は、現在好景気に沸く鉄鋼産業における例外的な事例である」と釘を刺した。

他産業も軒並み高い賃上げを要求

ドイツ鉄鋼産業の合意内容は、ここ15年間で最大の賃上げであり、今後の他産業の交渉に少なからぬ影響を与えると見られる。昨年3.6%(13カ月間)の賃上げで妥結した化学産業の交渉は4月初めに始まる。鉱山・化学・エネルギー労組(IG BCE)は地方レベルで6.5~7%の賃上げを要求している。他産業も繊維・衣料5.5%、ホテル・レストラン・ケータリング4.5~6%、農業5.5%、自動車修理5%などの高い賃上げ要求方針を示している。10月末には約320万人の金属労働者を対象とする労働協約が期限切れを迎える。昨年4.1%の賃上げを獲得したIG メタルのフーバー委員長は、2008年を「メガ賃金イヤー」と位置付け、さらなる攻勢を強めている。欧州中央銀行は、エネルギーや食品の価格高騰に続いて、高い賃上げが長期のインフレを引き起こすとして警鐘を鳴らしている。

表:2008年賃金交渉

産業部門 労働組合 賃上げ要求 対象労働者数 現行協約期限
公共サービス部門・教員・公立病院(連邦及び地方レベル) 統一サービス労組(Ver.di) 8%
(最低月額200ユーロ以上)
1,300,000 2007年12月31日
地方交通
公益事業 9%
医者・市町村病院 MB 10.2%
農業 建設・農業・環境労組(IG-BAU) 5.5% 170,000 2007年12月31日
鉄鋼 金属労組(IGメタル) 8% 107,000 2008年1月31日
ホテル、レストラン、ケータリング 食料・飲食・レストラン労組(NGG) 4.5~6% 100,000 2008年2月29日
繊維・衣料 金属労組(IGメタル) 5.5% 103,000 2008年2月29日
自動車修理 金属労組(IGメタル)、統一サービス労組(Ver.di) 5% 189,000 2008年2月29日
化学 鉱山・化学・エネルギー労組(IG BCE) 6.5~7% 547,000 2008年2月29日、3月31日、4月30日(地域によって異なる)

出所:ハンス・ベックラー財団付属経済社会科学研究所(WSI)

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