過去20年で高齢層の貧困率が低下、子供や若年層で上昇
―OECD格差報告書

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  • 国別労働トピック:2008年11月

経済協力開発機構(OECD)が10月21日に公表した格差報告書によると、過去20年間で、4分の3を上回るOECD諸国で富裕層と貧困層の格差が拡大し、相対的貧困率も上昇した。属性別では、日本を含め総じて高齢層の貧困率が低下した一方で、子供や若年層の貧困率が上昇した。日本の相対的貧困率は14.9%とOECD諸国中第4位で、急速な高齢化の進行が格差拡大をもたらしていると分析。また、日本の一世帯当たりの所得は過去10年で減少し、下位10%の平均所得は購買力平価で6000ドルと、加盟国平均の7000ドルを下回った。今後の格差を是正に向け、課税・給付による所得再分配は対処療法にすぎず、雇用拡大や教育の改善が必要であると指摘した。

2005年の所得格差、OECD平均で約9倍

2005年のOECD諸国平均で所得分位の上位10%(富裕層)の所得は、下位10%(貧困層)の9倍だった。この格差のがOECD平均を上回ったのは、メキシコ、トルコ、イギリス、ポーランド、ポルトガル、イタリア、韓国、日本、ニュージランド、スペインで、格差が5倍未満と最も小さかったのはデンマーク、スウェーデンだった(図1)。下位10%のOECD加盟国平均所得は購買力平価で7000ドルだったが、日本は6000ドルと平均を下回った(図2)。一方、日本の上位10%の平均所得は6万ドルでOECD平均の5万4000ドルより高い。

図1:富裕層と貧困層の格差(2005年)

図1

出所: Growing Unequal? OECD, 2008.

図2:下位・中位所得(2005年)

図2

出所: Growing Unequal? OECD, 2008.

時系列で過去20年間の推移をみると、4分の3を上回るOECD諸国で所得格差と貧困の拡大傾向がみられた。この原因は大半の国では富裕層と貧困層の所得格差の拡大にあったが、カナダ、フィンランド、ドイツ、イタリア、ノルウェー、アメリカでは富裕層と中流層の格差拡大も影響した。なお、2000~2005年の短期スパンでみると、カナダ、ドイツ、ノルウェー、アメリカなど所得格差が顕著に拡大した国もあれば、縮小傾向を示した国もある。例えばイギリスでは1980年代に格差が著しく拡大したが、その後同水準で推移し、2000~2005年には縮小した。日本の所得格差も過去5年間でみると縮小傾向に転じているが、過去20年間に格差が30%拡大し、OECD諸国平均(12%増)を上回った。この間の拡大幅が日本より大きかったのはイタリアのみだった。

報告書は格差拡大の要因を多方面から説明している。まずは人口構造の変化だ。少子高齢化・長寿化の進展によって単身世帯が増加した。二つは一人親世帯の増加などの社会的変化。一人親世帯の貧困率は全人口平均の3倍に及んでいる。だが、最も大きな要因は労働市場の変化だ。20年前に比べ就業率は上昇したが、その大半は同一世帯の第2稼得者が仕事に就いたためで、失業世帯の構成員が職に就いたためではない。低学歴者や低熟練者の就業率は依然として低い。

貧困率、定年前後の高齢層で急速な低下、子供・若年層で上昇

OECD定義による相対的貧困率とは、所得分布における中央値の50%に満たない人々の割合だ。報告書によると、2005年のOECD平均の相対的貧困率は10.6%で、北欧諸国が5~6%と最も低い。一方、南欧諸国、オーストラリア、日本、アメリカの貧困率は12~20%とOECD諸国平均を上回った(図3)。

属性別にみると、総じて高齢層が貧困に陥るリスクは低下し、若年層や子供のいる家族が貧困に陥りやすいことが明らかになった(図4)。高齢層のうち75歳以上層の貧困率は依然として高いが、過去20年間にかなり低下した。66-75歳層では、全体的に貧困に陥るリスクは少ない。同期間に所得の伸びが最も大きかったのは定年前後の55~75歳層で、このため多くの諸国で年金生活者の貧困率は顕著な低下をみせた。

図3

出所: Growing Unequal? OECD, 2008.

図4:年齢別貧困率(過去20年間): OECD

図4

出所: Growing Unequal? OECD, 2008.

これに対し子供や若年層の貧困率は、20年前には人口全体の平均程度か、あるいは下回る水準であったが、2000年半ばには全体平均を約25%上回る結果となった。貧困が、年金生活者から若年層や子供のいる家族にシフトしつつある傾向がみてとれる。報告書はさらに、生産年齢人口に比べて高齢層が生活に必要な基本的ニーズ(ベーシック・ニーズ)に不足する可能性が低く、資産的にもより裕福である傾向にあることから、所得のみに基づいた貧困指標では、高齢層の物質的な困難度が過大評価されると解説。そのうえで、子供に対する福祉が成人後の所得や健康状態を左右する主要因であるとして、こうした状況を改善する政策的対応を各国に求めている。

このほか報告書では、イタリア、イギリス、アメリカなど所得格差が大きい国ほど貧困率が高く、社会的モビリティが低い一方で、所得分配が平等な北欧諸国では社会的モビリティが高いことも明らかにしている。格差が大きい国では、子供の教育水準も両親の所得も改善されにくい傾向にある。子供の将来所得は両親の所得に近似しており、所得格差の改善は世代間の所得モビリティの拡大と関連している。

格差の是正に教育と雇用の改善を

報告書の公表にあたってアンゲル・グリア事務局は、「格差の拡大は社会の分裂を招く。社会を二極化し、一国を各地域に分断し、世界を富裕層と貧困層に切り分ける。所得格差は世代間の上昇モビリティを抑制し、有能かつ勤勉な人々がそれに値する報酬を得ることを困難にする。格差を無視するという選択肢はあり得ない」とコメント。だが、所得再分配や貧困軽減を目的とする課税・給付制度の役割は依然として多くのOECD諸国で重要ではあるものの、その効果が過去10年間に低下しつつことも明らかになっている。グリア事務局長は、「より多くの社会支出によって格差を是正することは、対処療法に過ぎない。格差拡大の大部分は労働市場の変化に起因する。だからこそ政府が行動しなければならない。低熟練労働者は職を探す上で大きな問題を抱えている。雇用の拡大こそが貧困を削減する最善の方法だ」と訴えた。

報告書な具体的な政策改善を各国政府に提言している。一つは、労働市場のニーズに対応した技能の習得を目的とした教育政策を講じること。教育政策の改善は、エリートのみならずあらゆる人々に成長の恩恵をもたらす上で重要だ。二つは、失業者の求職支援に必要な積極的雇用政策を講じること。三つ目は、賃金労働へのアクセスを拡大すること。就労へのアクセスは、貧困リスク軽減の鍵だ。だが、報告書では、就労していても必ずしも安泰というわけではなく、何らかの所得を得ていても貧困に陥っている世帯が全世帯の半分を上回っていることを明らかにしている。そこで四つ目に、ウェルフェア・イン・ワーク政策を挙げ、失業給付、障害給付、早期退職給付よりも、在職給付の提供によって、困難な就労世帯がディーセントな生活水準を維持できるよう支援することが重要だとしている。

資料出所

  • OECD (2008) Are we growing unequal?: New evidence on changes in poverty and incomes over the 20 years, media brief, press release, and country note Japan.

参考レート

  • 1米ドル(USD)=99.11円(※みずほ銀行リンク先を新しいウィンドウでひらくホームページ2008年11月5日現在)

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