金融危機で失業者2千万人増加の見通し
―ILO速報値

カテゴリー:雇用・失業問題統計

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  • 国別労働トピック:2008年11月

金融危機の影響で、07年時点で1億9000万人だった世界全体の失業者総数が2000万人増加し、2009年後半には2億1000万人に膨らむ――。国際労働機関(ILO)は10月20日、こうした試算を明らかにした。最も打撃が大きい産業は、建設業、自動車産業、観光業、金融業、サービス業、不動産業。また、所得が1日当たり1ドル未満の最貧層は約4,000万人、2ドル未満の貧困層は1億人以上増えると試算している。ソマビア事務局長は10月10日、金融危機に取り組む緊急対策を呼びかける声明を公表し、各国政府が協調して迅速な措置を講じ、深刻かつ長期化する可能性のある社会的危機を回避する必要があると訴えている。

金融危機への対策に4つの柱

声明は冒頭で、「食糧・燃料費の高騰に加え、今回の金融危機が世界中の企業、労働者、家族に及ぼす影響は深刻だ」として、「各国政府が協調して迅速な行動を採らなければ、深刻かつ長期的な景気低迷を招くおそれがある」との懸念を示したうえで、グローバルレベルでの取り組みに向けた4つの柱を掲げた。

一つは、深刻な打撃が及ぶ前に、資金の流れを迅速に回復することで、声明はこれを最優先事項に掲げている。二つ目は、(1)銀行や金融機関に対する緊急救済措置(2)危機の勃発には何ら責任がないにもかかわらず雇用や所得の喪失に苦しむ労働者や家族を支援する社会保護制度の維持・向上(3)とくに中小企業が融資にアクセスし、レイオフや賃金カットを回避し、回復に向けた準備ができる体制の確保(4)最も脆弱な人々や企業を保護するための最後発国へのODA――を通じて最低限の基盤を構築すること。

三つ目は、国際金融市場の慢性的な変動性・不安定性を軽減するための規制体制の再構築に着手すること。市場経済の新たな体制の基礎として、勤勉により公正な報酬が得られるという伝統的な倫理を掲げ、「金融制度は、社会の公正、持続可能な企業の重要性、ディーセントかつ生産的な仕事、平穏無事な地域を支えるべきもので、決して阻害するものであってはならない」と主張。具体的には、「生産的な投資を促進し、投機的行動を抑制し、透明性を確保し、信頼性を再構築する金融政策が必要だ」とし、全諸国の金融機関の慣行・制度の質を監視する国際通貨基金(IMF)の役割を強調した。

四つは、復興から持続的発展への移行だ。実現には、あらゆる人々に機会を提供する公正なグローバル化を支える新たなガバナンスフレームワークの必要性を掲げた。声明は、「我々は今回の危機勃発以前にも危機に瀕していた――すなわち継続的で世界規模での貧困や社会的格差が拡大している」とし、持続可能な発展に向けたバランスのとれた統合的アプローチを促進する新たな国際的制度体系の構築を求めている。そのうえで、関連の国際機関がディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の機会を創出する統合的な政策を開発することを、持続可能な復興と公正なグローバル化の基盤の一つに位置づけた。最後に、4つの柱を実現するうえで、政労使のニーズや経験を反映することの重要性を掲げ、声明を締めくくっている。

実体経済への救済措置を求める

今回のILOの失業予測が現実化すると、雇用面への影響はアジア通貨危機の2倍弱に及ぶことになる。ソマビア事務局長は、「適切な対処策が講じられない場合、この試算さえ過小評価となる可能性がある」とし、実体経済と勤労者世帯を救済するため、ディーセントワークを保障する政策と統治に裏付けられた経済計画の必要性を訴えるとともに、実体経済を推進するという金融の基本的機能への回帰を呼び掛けた。事務局長はまた、11月にも米国で開催される金融危機サミットで、持続可能な企業やディーセントワークの保護・推進を中心的テーマに据えることを提言した。

資料出所

  • ILO press releases.
  • Sustainable Recovery and Shaping a Fair Globalization, Statement by Mr. Juan Somavia, Director-General, ILO, IMF Committee and Development Committee, Washington, 10-11 October 2008.

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