金融危機が実体経済に波及
―自動車産業で相次ぐレイオフ、政府は救済措置の検討へ

カテゴリー:雇用・失業問題労使関係

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  • 国別労働トピック:2008年11月

自動車産業を筆頭に金融危機が徐々に実体経済に波及しつつある。新車需要の減少で、自動車大手各社が減産に乗り出し、レイオフを公表。余波は他の輸出産業にも浸透しはじめた。実体経済への救済策を求める各界の声が高まるなか連邦政府は、打撃の大きい特定産業に焦点を当てた救済措置の検討に踏み出した。11月上旬には具体策をまとめ、閣議決定を目指す方針だ。

販売低迷が自動車産業を打撃、大手各社が減産へ

金融不安による新車需要の減少を背景に、ドイツ自動車大手各社の生産調整が相次いでいる。オペルは西部のボーホムと東部のアイゼナハにある2つの工場の生産を一時(各々3週間)停止すると発表。ボーフム工場ではすでに5000人の労働者がレイオフ(一時帰休)の対象となった。アイゼナハ工場では約1800人がレイオフされる見通しだ。オペルは、ドイツ国内に限らずスペインやイギリスの生産拠点の一時生産停止も検討している。年内の生産は、当初計画より4万台減らす。

続いてフォード・モーター社も、ザールルイのパートタイム労働者204人をレイオフする方針を示した。さらにダイムラーもメルセデスベンツの販売不振を受け、同社最大規模のジンデルフィンゲン工場での生産を12月半ばより一時停止し、1月12日に再開する方針を示唆。その後ダイムラーは、生産中止の対象を国内14工場すべてに拡大すると発表した。減産予定は年内約4万5000台。報道によれば、今後労組側との最終調整がなされる見通しだが、対象となる従業員は約15万人に及ぶ。このほか高級車メーカーとして知られるBMWも、10月末にライプチヒ工場での生産を4日間停止すると発表。計画より2800台の減産を予定している。

金融危機の影響は、最も雇用調整弁になりやすい派遣・有期労働者を直撃している。派遣労働者1万2000人を抱えるイングリッド・ホフマン社によれば、派遣労働者の一部が自動車メーカーや部品メーカーから稼働時間調整で短時間勤務を余議なくされたり、人員カットの対象になっているという。

危機の余波は他の輸出産業にも浸透しはじめている。95万人もの雇用を吸収する機械製造産業では、顧客による発注中止が続出。例えば、印刷機器メーカーのケーニッヒ&バウアー社は、発注キャンセル・保留に対応するため、内外で700人程度の雇用削減の必要性を見込んでいる。ソフトウェア製造企業のSAPやグリュナー&ヤールなどの出版社は、需要や販売の減少に採用凍結で対応。ルフトハンザでは、商用旅客や貨物輸送が減少している。不動産業でも、銀行の貸し渋りなどの影響もあり住宅購入のキャンセルが相次いでいる。将来への先行き不透明ななか、高級品などを中心に消費者の買い控えも深刻だ。

金融不安は、現時点ですでに歳入減・社会支出の増加をもたらしている。加えて、複数の経済研究所の予測では、2009年には労働者35万人が失職するという。

産業界、公的措置を要求/IGメタル、8%の賃上げ要求堅持

今回の金融危機に対し欧州各国政府は13日、相次いで金融機関支援策を発表。ドイツは最大5000億ユーロの金融支援策を打ち出した。17日には金融市場安定化法を可決し、金融機関に対する公的資金の注入と資金繰り支援の発動準備を異例のスピードで整えた。だが、自動車産業の陰りなど、危機の影響が実体経済に波及するにつれ、産業界の関心は実体経済の先行きに移行しはじめ、「実体経済こそ救済策が必要だ」とする報道が目立ち始めた。実際、グロース経済相は10月16日、2009年の実質成長率の見通しを1.2%から0.2%に下方修正すると発表し、金融危機が実体経済に影響すると説明した。景気の先行き懸念から個人消費が冷え込み、企業の投資意欲も停滞。欧州最大の経済力を持つドイツの成長率鈍化が避けられない情勢となった。2008年第2四半期の同国のGDPは0.5%縮小。多くのエコノミストは第3四半期に一層の低下を見込んでいる。

こうしたなかヨルゲン・ザーマン・ドイツ産業連盟(BDI)会長は16日、政府に対し可能な限り金融危機の実体経済への影響を緩和する措置を採る必要があると訴えた。また、ドイツ産業連盟(VDA)も、「金融危機で消費者不安が増大しつつある。その解消に向けて何らかの措置が必要だ」などと主張。ハンブルグ国際経済研究所は、緊急経済対策の実施や全納税者を対象とする現金給付(11月、12月に各100ユーロ)を提案した。フォルクスワーゲンのフェルディナンド・ピエヒ会長は、「ドイツの自動車産業は長期的低迷を余儀なくされるだろう」とコメントしている。

他方、産業界の動きに先立ってドイツ金属産業労組(IGメタル)は10月1日、金融危機に対抗する10項目にわたるプログラムを要求する声明を発表。「30年間にわたる規制緩和が金融システムを崩壊寸前に追いやった」として、今回のような危機から労働者が保護されるよう、金融市場の規制による実体経済の保護――すなわち成長と雇用への財政支援策――を訴えた。IGメタルは今秋、堅調な経済成長を理由に掲げ、8%の賃上げ要求を携えて交渉に臨んでいる。これについてメディアは、「IGメタルの要求水準は、今となってはまるで別世界の話のようだ」などと報じた。だが、ベルホルト・フーバー・IGメタル会長は10月16日、「8%の賃上げ要求はドイツ経済成長の安定要因だ。輸出産業が被るリスクを考えれば、需要が強化されなければならない」などとして、今回の交渉ラウンドではあくまで要求水準を貫く構えを示している。

連邦政府、特定産業への救済措置を検討へ

こうしたなかメルケル首相は13日、包括的な緊急経済対策は導入しない考えを明らかにする一方で、自動車産業への支援については前向きな方向を示した。その後EU首脳会議が16日、金融危機について協議し、域内の景気と雇用などを支援する方で確認。これを受け連邦政府は10月20日、実体経済の活性化を目的に特定産業に絞った支援措置を検討する方針を正式表明した。首相報道官によれば、メルケル首相は閣僚会議で、11月を目途に世界金融危機による打撃が大きい産業を救済するために可能な支援策を検討するよう経済・金融両相に伝え、「今必要なのは、特定産業への投資を活性化するための厳密かつ迅速で、焦点が絞られた措置だ」と発言したという。具体的には、自動車メーカーに焦点を当て、低排出車を対象とした減税措置、中小企業に対する公的融資保証などが検討対象となる見通しだ。連邦内閣は、11月上旬にも閣議決定する方向で調整を進めている。

資料出所

  • Spiegel Online (2008年10月14日、10月15日、10月20日)
  • Deutsche Well (2008年10月7日、10月13日、10月14日、10月15日、10月16日、10月20日、10月23日、10月26日)
  • ドイツ金属産業労組(IGメタル)リンク先を新しいウィンドウでひらくホームページ

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