労働時間口座の保護強化を閣議決定
―企業倒産や転職でも貯蓄保証

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  • 国別労働トピック:2008年10月

連邦政府は8月13日、柔軟な労働時間の安定化に関する条件改善法案(Flexi II)を閣議決定し、長期労働時間口座の法的保護を強化する方向を示した。法案の目的は、勤務先が破産した場合や労働者が転職する際の貯蓄保護。同法により、倒産企業が長期労働時間口座の保護を怠った場合、労働者は未消化分の損害賠償請求が可能となる。口座を維持したい場合は、次の雇用関係に移行するまでの間、貯蓄した労働時間を連邦年金基金の管理に委ねることも可能だ。労働者が転職する場合も、口座は失効せず、次の職場へのポータビリティ(可搬性)が認められる。転職先に労働時間口座の取り決めがない場合も、貯蓄した労働時間を連邦年金基金に委託できる。連邦政府は、同法案を早期成立の必要性があるものと位置づけ、2009年1月1日の国会通過を目指している。

保護対象、長期口座に限定

ドイツは労働時間の柔軟化の一環として「労働時間貯蓄制度」を導入している(注1)。この制度により労働者は、口座に労働時間を貯蓄し、それを休暇や労働時間短縮といったニーズに合わせて利用できる。労働時間口座には、短期口座と長期口座とがある。前者は、貯蓄した労働時間を1年以内に清算する仕組み。後者は、清算期間が長く、長期的スパンでの労働時間調整を可能とするものだ。同国では、全企業の約3分の2が何らかの労働時間口座を設けており、普及率が最も高いのは短期口座である。これに対し長期口座を導入している企業は7%に過ぎない。もっとも、化学部門、鉄鋼産業が長期口座を容認する団体協約を締結し、個別企業レベルの労使交渉のなかで時間スケジュールの決定を可能としたため、将来的には長期口座の普及が見込まれている。

こうして労働時間口座が普及するに伴い、企業倒産の際に貯蓄時間の保護をいかに担保するかが喫緊の課題として浮上した。現在、企業倒産時の口座保護を定めた事業主は4社のうち1社に過ぎない。長期口座の導入企業ではこの比率は44%に上昇するものの、半数以上の企業が、長期の貯蓄時間についてすら倒産時の保護を定めていない。こうした現状を踏まえ、今回の法案では、失効した場合に労働者が負担するリスクが大きい長期口座に限定し、貯蓄の保護を図った。

保護の対象となるのは、3カ月分の月給(西部で約7,000ユーロ、東部では約6,500ユーロ)に相当する労働時間を超える貯蓄のある口座だ。貯蓄された労働時間は、時間当たり賃金を乗じることで金銭換算される。破産企業が保護を怠った場合、当該労働者は貯蓄分に対する損害賠償を請求できる。金銭賠償を望まない場合は、次の雇用関係に移行するまでの間、口座を連邦年金基金の管理に委ね、維持することも可能だ。

また、転職により勤務先が変わる場合も、口座の可搬性(ポータビリティ)が法的に保証される。転職先に労働時間口座の取り決めがない場合は、企業倒産の際の口座保護と同様、連邦年金基金に口座管理を任せることも可能だ。

長期口座の普及が進展すれば、積み立てた労働時間を充当することで、資格取得や育児・介護、老齢年金受給までの移行期間といった利用目的に対応した長期休暇が取得しやすくなる。また、パートタイム就労を選択する場合、当該期間中の給与をフルタイム相当に増額する目的で活用することも可能だ。こうして、減給・無給扱いを受けることなく柔軟な時間調整が促されることになる。

DGB、全口座への包括的保護を求める

ドイツ労働組合総同盟(DGB)は、同法案に対する不満をあらわにしている。イングリッド・ゼアブロック副会長は、「労働時間の一部を口座に貯蓄している労働者は、使用者に利子の付かない融資を行っているも同然。使用者側の支払不能に対しては全面的な保護が必要だ。労働時間柔軟化のリスクは労働者が負うべきものではない」などと述べ、適用制限を撤廃し、あらゆる貯蓄を対象とした包括的補償を義務化するよう訴えた。また、企業破産時の口座保証に関する効果的なチェック機能が欠けている点についても、改善を求めている。他方、ドイツ使用者団体連盟(BDA)は、破産時の口座保証が長期口座に限定されていることを評価し、「議会審議でも法案の基本方針の変更はあってはならない」などと主張している。連邦政府は、同法案を早期成立の必要性があるものと位置づけ、2009年1月1日の国会通過を目指している。

参考資料

  • 連邦労働社会省発表資料(2008年8月13日)
  • FAZ-NET(2008年8月13日)
  • Welt Online(2008年8月13日)

参考レート

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