社民党、最低賃金で一段の攻勢
―企業幹部の高報酬、保守政党からも批判

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  • 国別労働トピック:2008年1月

郵便事業に最低賃金を適用する法律が議会で可決・成立し、08年1月の郵便市場の完全自由化とともに施行される。社会民主党(SPD)は、08年の州選挙、09年の総選挙に向けて、業種別最低賃金の拡大、全国一律制の導入などで、さらに攻勢を強めている。一方、キリスト教民主同盟(CDU)は最低賃金の拡大に反対の姿勢を堅持しつつも、メルケル首相が企業幹部の高額報酬に上限を設定する案を提起するなど、選挙を意識して中道寄りの路線を打ち出している。

最低賃金、郵便事業適用の法律成立

郵便事業に最低賃金を適用する法律が連邦議会で07年12月14日、連邦参議院で20日に可決され、08年1月1日の郵便市場の完全自由化と同時に施行される。これは、ドイツ・ポストなどが加盟する郵便サービス事業協会と統一サービス労組のヴェルディが締結した最低賃金協約を、外国企業を含むすべての郵便事業者に適用するものである。ただし、対象は本業として郵便の配達および仕分けを行う労働者に限られ、新聞や小包の配達とともに副次的業務として郵便配達を行う労働者には適用されない。最低賃金の時給額は、郵便配達労働者が西部ドイツ9.8ユーロ、東部ドイツ9ユーロ、その他の労働者(事務部門など)が西部ドイツ8.4ユーロ、東部ドイツ8ユーロである。10年1月1日からは、東部ドイツでも西部ドイツと同じ最低賃金額が適用される。

しかし、この協約に参加していないドイツ・ポストの競合企業のPINグループやTNTポストにとって、この最低賃金額は高すぎるといわれている。PINグループの大株主は競争力の喪失を理由に出資の凍結を発表し、9000人の郵便労働者が失業の危機に瀕している。オランダ企業のTNTポストも、小包配達拠点を活用した個人向け郵便サービス事業への参入を断念し、企業向けサービスに限定する方針を発表した。オランダ政府も、ドイツ郵便事業への最低賃金適用を理由に、08年1月に予定されていた自国の郵便市場の完全自由化を当面延期する方針を示した。

社民党、全国一律最賃制の導入など提起

SPDのショルツ労働社会相は郵便事業を皮切りに、最低賃金の適用を派遣労働、食肉加工、美容院、製パンなどの対象分野に拡大する方針を示した。その前提は、労働協約の適用率が50%以上ある分野の労使が最低賃金協約に合意し、08年3月31日までに業界全体への適用を共同で申請することである。

SPDは07年10月末の党大会で時給7.5ユーロの全国一律最低賃金導入を決議したが、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)はこれに断固反対している。SPD議員団長のシュトルック氏は、世論調査での全国一律最低賃金に対する国民の高い支持を背景に、08年の4つの州議会選挙、09年の連邦議会選挙を「最低賃金に関する国民投票」として位置づけると述べた。

キリスト教社会同盟(CSU)のグロス経済相は、「明らかに高すぎる最低賃金は雇用を採算が取れないものにし、とりわけ低資格者の雇用削減につながる」と警告した。CDU議員団長のカウダー氏も「一般的な法定最低賃金はありえない。賃金決定は労使の仕事だ」と述べた。しかし、1月27日に州議会選挙が予定されるニーダー・ザクセン州のヴルフ首相が「ドイツは欧州連合加盟27カ国中、22カ国に最低賃金がある事実を無視できない」と述べるなど、厳しい選挙を控えたCDU政治家のなかには、最低賃金に柔軟な姿勢も見られる。

ドイツ使用者団体連盟(BDA)のフント会長は、「産業別法定最低賃金は郵便事業と同様、他の業種でも多くの人々が雇用を失う結果につながる」として、労働社会相の方針を批判した。Ifo経済研究所のシン所長は、最低賃金は一般的に有害であり、時給7.5ユーロの最低賃金を導入した場合、110万人の雇用が失われると主張する。

政府の経済諮問会議のリュルップ委員長は、賃金協約がない分野の最後のセーフティーネットとして、「時給4.5ユーロ程度の広域最低賃金なら大した雇用喪失は引き起こさないだろう」と述べている。この額は就労能力のある生活困窮者に支給される失業給付Ⅱの水準に相当するという。

保守政党、高報酬の規制を議論

保守政党のキリスト教民主同盟(CDU)は伝統的に家族の価値や経済界とのつながりを重視してきた。05年の総選挙では、解雇規制の緩和や賃金、労働時間の柔軟化を可能とする企業レベルの労働条件決定重視などの労働市場改革を主張した。しかし、07年12月初めの党大会では、急進的な経済改革路線の代わりに「中道の政党」をスローガンに掲げ、次期総選挙での中道左派支持層の票の獲得をめざしている。

メルケル首相は党大会で、企業幹部の高すぎる報酬について批判し、「理性的な規制」の必要性を訴えた。首相は、成功に報いることには誰も反対しないが、「企業幹部の失敗が法外な報酬によって報いられるなら、それはわが国の社会的均衡における信頼を損なう」と強調した。

ケーラー大統領も11月末に、「企業幹部は彼らの行動が社会の連帯に影響を与えることを理解しなければならない。私には社会と企業文化がますますかけ離れていくように見える」と批判した。シュトルックSPD議員団長は、従業員の1年の賃金を企業幹部が半日で稼いでしまうのは理不尽なことだと述べた。ベックSPD党首は08年にこの問題で「正義の討論」を行うと宣言した。

こうした批判の背景には、ドイツの企業幹部の報酬がアメリカ企業のようにどんどん上昇する一方で、低所得者の収入が低下し、金持ちと貧乏人の間に深い溝ができてしまっている実態がある。最近も高級スポーツカー・メーカー、ポルシェの企業幹部6人に対する06年の報酬が合計1億1270万ユーロ(約181億円)にのぼり、このうちCEOのヴィーデキング氏に対する報酬が約6000万ユーロ(約96億円)であったと報じられた。前年の企業幹部6人の報酬は合計4520万ユーロであった。

ドイツ商工会議所のブラウン会頭は、首相や大統領の批判に対し、「政治指導者はこの問題に口を出すべきでない」「最良の経営者を雇うために支払う報酬の額を決めるのは企業の監査役会だ」と反論した。ドイツ使用者連盟のフント会長も、「我々は世界中で求められている最良の経営者を必要としている。ドイツの企業幹部の報酬は国際比較において高いわけではない」と述べた。ドイツ産業連盟のトゥーマン会長は、1万5000人の企業幹部に対して、経営者の報酬に上限を設けるいかなる案にも一致して反対するよう呼びかけた。

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