郵便事業会社、11年ぶりに全国スト

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  • 国別労働トピック:2007年9月

イギリスの郵便事業会社であるロイヤル・メールの労使交渉が難航している。賃上げと合理化計画が焦点で、郵便労働者を組織する通信労働者組合(CWU)は11年ぶりの全国規模のストライキを実施した。9月はじめ現在の時点では、労使は交渉のテーブルについているが、収束の目処はまだ見えていないようだ。

賃上げと業務縮小案が当面の争点に

ロイヤル・メールは、2001年に100%政府所有の株式会社となったロイヤル・メール・グループ(旧ポスト・オフィス)の郵便事業部門(注1)で、従業員数、収益ともグループ全体の約8割を占める。

賃上げと業務縮小案が労使交渉の当面する焦点となっている。交渉は3月はじめに開始された。経営側は2.5%の賃上げと600ポンドの一時金の支給、週末配達の縮小、業務開始時刻の遅延などを提示したが、組合側は受諾を拒否した。賃上げ率が全国平均の賃金上昇率(07年4月で4.1%)に達せず、また業務縮小案が雇用削減につながりかねないことなどが理由だ。加えて、昨年に雇用尊重、賃金水準の向上、労使協議に基づく合理化案の策定などを柱にした労使確認を交わしており、今回の経営側の提案はこの確認を全く無視している、と組合側は主張している。

これに対し、経営側は現行の賃金水準は既に産業平均よりも3割以上高く、組合側の要求する賃上げは競争力の低下を招くと反論している。業務縮小案についても、現在の厳しい郵便市場競争下では不可避だとの立場を崩していない。

労使間の争点は、このような当面の賃上げと業務縮小案だけではない。経営側は今年はじめに、向こう5年間の事業計画案の大枠を公表した。その内容は、政府からの要請を踏まえての3億5000万ポンドの経費を削減する業務合理化に加え、企業年金の確定拠出型への転換、従業員持株制の導入(注2)などが柱。とくに年金制度転換、持株制は組合側がかねてより反対してきた項目で、組合との協議抜きでこの事業計画案を公表した経営側に不信感を募らせ反発を強めている。組合側によれば、交渉開始の当初、経営側は事業計画案に対する合意を一時金支払いの前提条件とすると主張していたが、組合側が強く拒否したため、条件を撤回したという。

数カ月にわたり交渉が平行線をたどったため、組合は全国ストのスト権投票を実施、投票した組合員の8割近くの支持を得て、6月末からのストの開始に踏み切った。同月29日と7月12日の2度の24時間全面ストの後、「より効果的かつ従業員側の負担の少ない方法」として、8月初旬までに全国の配達局や仕分け局などで2週間にわたる部分ストを行い、13万人の組合員がこれに参加した。加えて、ストの影響で滞った郵便物の処理をめぐる対立などから、スコットランドの各都市やロンドン、オックスフォードなど多くの地域で非公認ストが発生、結果として、全国の集配サービスが滞り、一部地方では集配が全面停止するに至った。

組合側は8月以降も部分ストを継続する構えをみせていたが、英国労組会議(TUC)の仲介により、労使は9月はじめの合意締結を目指して交渉のテーブルにつくこととなり、公式のストは休止した。ただし、非公認ストは未だに一部地域で継続しており、収束の目処は立っていない。

避けて通れない合理化

ロイヤル・メール・グループは、株式会社化の前後あたりから、業務の整理・合理化を実施し、それに伴い従業員を削減してきた。同グループは2001年に17800局あった郵便局を2007年には14300局(注3)に減らした。さらに、政府は5月に、2009年までに新たに2500の郵便局の廃止や移動局等への転換を実施することを決定した。同時に、配達回数の削減など業務内容の圧縮や派遣労働者の投入なども進められ、グループ全体の人員は株式会社化以降、4万人以上落ち込んだ(2006年末で18万8000人)。

ロイヤル・メールは、グループの基幹部門のため、人員削減や業務縮小から受けた影響が最も大きい。また、政府は一昨年から、目標インフレ率の維持を理由に公共部門の賃上げ率を2%程度に抑制する方針を明示しており、この影響から、もともと全国平均よりも低い郵便産業の賃金水準の一層の相対的低下を招いている。さらに一部手当の廃止も実施され、一連の人員削減策の実施とあいまって従業員の不満が募っていた。これらが全国ストに対する組合員の多数支持の背景にあると指摘されている。

組合側は事業の合理化自体の必要性は認めている。しかし、経営側が提案している合理化案が実施されれば約4万人の雇用が失われるとみており、雇用維持を前提に合理化の具体案を労使協議の場を通じて詰めるように経営側に求めている。

ロイヤル・メール・グループの2006年の経常利益は6年ぶりに赤字に転落している。昨年に完了した郵便事業の完全自由化によって競合他社との競争が激化し、大口郵便の契約などが減少、さらに電子化の進展による郵便事業自体の縮小などの影響もあり、既存局の3分の2が赤字を計上している。また、年間7億ポンドを超える企業年金の負担も、赤字転落の原因となった。

経費削減が進まないのには別の事情も絡んでいる。競合他社は配達に係るネットワークを持たないため、替わって、ロイヤル・メールが他社の委託を受けて大部分を各戸に配達している。その委託料金の設定には監督機関である郵便サービス委員会(Postcomm)の承認が必要だ。同委員会はロイヤル・メールの高コスト体質、特に人件費や年金の経費削減の努力不足を批判しており、このため委託料金の引上げには消極的な姿勢を続けている。委託料金が上がらないために、配達のコストをカバーできていないことも、経費削減が進まない一因だとロイヤル・メールは主張している。

なお、労使交渉の現在の中身については一切公表されていない。合理化による経費削減は政府の既定路線として枠が定められており、その実施は不可避とみられている。合理化を具体的にどう実施し、雇用への影響をどう配慮するかが交渉の焦点だろう。

参考レート

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