教育・技能訓練政策の改革に着手

カテゴリー:人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2007年8月

政府は、技能労働者の不足、教育・技能水準の低迷といった課題に対し、長期的視野に立った新しい改革に着手している。読み書き・計算から高度な職業能力に至るまで全般的な技能の向上のために、多くの労働者に教育・技能訓練の機会を与えるとともに、企業の主体的な参加を促して訓練の質を高めるのが目的だ。他の主要先進国に比べ低位にあると指摘されるイギリスの教育・技能水準を2020年までにトップクラスに引き上げるのを目標としている。

企業が政府に誓約書提出

改革の基本的枠組みは、財務省および教育技能省の委任を受けた諮問委員会が昨年12月に公表した提言書(注1)の中に既に示されていたが、実施計画の明確化など政府の対応が遅れていた。

改革の第一歩として、政府が6月に打ち出したのは、「スキルズ・プレッジ」(技能に関する誓約)という在職者の教育訓練に関する企業・団体向けのプログラム。「スキルズ・プレッジ」とは、各企業等が従業員全員の技能水準を全国資格枠組みのレベル2(注2)以上に引き上げる旨、政府に対し誓約するというもの。プログラム開始時点で157の団体が参加を表明している(参加従業員総数は約170万人)。参加団体の半数以上は行政機関・公益団体などだが、民間部門からもマクドナルドやブリティッシュ・テレコムなどの大企業のほか、中小企業が多く参加したことから、このプログラムの推進について政府は自信を強めている。プログラム参加に消極的な企業は今後、経済競争から脱落していくことになろう、と政府は警告している。

実施状況の評価に基づいて、政府はプログラム制度見直しを2010年に予定している。この時点で、参加企業が思うように集まらなかった場合、何らかの法的措置を講じる考え。具体的措置はまだ決まっていないが、参加しない企業に対して課徴金を化するなどの方法ではなく、むしろ傘下企業を対象に教育訓練費用の助成、コンサルティングなどの公的支援の充実などを実施する普及方法が有力視されている。2020年には、在職者におけるレベル2資格保有者の比率を、2005年の69%から90%にすることなどを目指す。

冷ややかな態度の民間企業

「スキルズ・プレッジ」には、英国労働組合会議(TUC)、英国産業連盟(CBI)も協力しており、各傘下の労組・企業に対して参加を呼びかけるなどしている。特に、TUCはこれまで労使間のパートナーシップによる各企業の教育訓練実施を促してきており、このプログラムがそれを一段と推進する契機となるとして歓迎している。

とはいうものの、いまのところ、民間企業の態度は総じて冷ややかといってよい。例えば、英国人事協会(CIPD)が従業員1000人以上の企業を対象にした調査によると、回答企業の3分の2が雇用者の技能向上の重要性を認識しているにもかかわらず、約半数が「自発的な参加は見合わせたい」と答えている。訓練の費用負担への懸念、訓練効果への疑問などが主な理由だ。また中小企業を多く会員に持つ英国商工会議所も、各企業はそれぞれの実状に応じて訓練を実施しており、公的資格制度を基準にした訓練は費用増にはつながっても経済効果は薄い、と批判している。

このほか、識者からは、「企業が資格保有者を選好することになれば、無資格者の雇用機会を損ねる結果を招きかねない」、「従業員の側でも今さら座学にはついていけないのではないか」、といった指摘も出ている。

労働者個人を対象にした対策も

6月末に成立したブラウン新政権が発足直後に行った省庁再編により、19歳以上の教育・技能政策分野が教育技能省の所管から切り離され、同じく貿易産業省から分離された科学技術・イノベーション分野とあわせて、新たにイノベーション・大学・職業技能省(Department for Innovation, Universities and Skills)が設置された(注3)。これにより、高等教育および成人向けの教育・技能分野を所管することとなった同省は、7月に公表した政策方針文書(注4)で、諮問委員会が提言した内容をほぼ全面的に受け入れることを明確にした。同時に、改革の一環として、技能訓練や資格取得の促進を目的とする各種メディアを通じた大規模なキャンペーンを開始した。今後5年間で、同種のキャンペーンとしては異例の2千万ポンド(約50億円)を広報費を中心に投じて、広く一般に教育・技能の重要性を呼びかける。このほか今年度中には、労働者個人を対象にした「スキルズ・アカウント」というプログラムをパイロット実施する。個々人に合わせた技能訓練のプランや経費管理など、失業者や技能訓練受講者などへのサービスの充実とシステム化をはかることがねらい。政府はこのプログラムを、企業向けの「スキルズ・プレッジ」と並べて資格取得支援施策の柱に位置付けている。

さらに来年度以降には、企業の技能ニーズの一層の反映などを目的として、より組織・財政面に踏み込んだ本格的な改革が予定されている。

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