CLA、新労働政策の優先事項を発表

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  • 国別労働トピック:2007年3月

1. 新労働政策改革の主要ポイント

行政院労工委員会(CLA)の李應元主委(委員長)は2月、新年(旧暦2007年)の労働政策改革の議題における優先課題として、大幅に遅れている新たな労働年金基金の運用委員会設立に関する法案の議会での成立、および2009年に開始する労働年金の年金方式給付制度の採用があると語った。

旧正月にCLA本部でおこなわれた記者会見の席上、李主委は、CLAでは旧正月休み明けの2月26日以降に、月額1万5840台湾ドル(約480米ドル)の「基本賃金」の引き上げの可能性について公聴会をおこなうつもりだと語った。李主委は、「労働年金基金運用委員会」を設立するための組織法案が立法院で成立しなかったことに遺憾の意を表明し、この遅れによって、1300億NTドル(約39億4000万米ドル)を超える基金の合理的・効率的な運用ができなくなると語った。

また李主委は、CLAでは、20年前に戒厳令が解除されて以来改正されていない労働組合法、団体交渉法、および労使紛争解決法の新たな改正案を、行政院に提出ずみであると語った。

李主委は、1958年労働保険法で同一企業に25年以上勤続している従業員を対象とした一時金方式を採用したのは、当時の平均寿命が65歳であったことを反映していると指摘した上で、台湾人の平均寿命が80歳になり、台湾が「高齢化社会」へと向かっていることから、年金方式給付制度を採用した方が労働者にとってはるかに有利だと、言明した。

李主委によれば、現在の製造業平均賃金である月収4万3900台湾ドル(約1330米ドル)の労働者が月額483台湾ドル(約14.64米ドル)を個人年金基金およびポータブル年金基金に拠出した場合(これに雇用者および政府の拠出金がそれぞれ月額1679台湾ドル(約50.88米ドル)、240台湾ドル(約2.27米ドル)加わる)、退職後に月々1万7560台湾ドル(約532米ドル)を受給することが可能となり、退職後の寿命を22年と推定すると、この期間の受取額は合計464万台湾ドル(約14万600米ドル)となる。

さらに李主委は、CLAが政府補助住宅ローン、訓練補助金、失業者子弟の授業料補助など100億NTドル(約3億300万米ドル)に上る労働福祉プログラムに着手することも発表した。

李主委は記者の質問に答えて、1997年10月以来変更されていない基本月額賃金1万5840NTドル(約480米ドル)の上方修正を「強く支持する」ことを認め、「法律にもとづいて全面的な見直しと評価を実施する必要があることから、直ちに発表をおこなうことはできない」とした上で、基本賃金の見直しを実施するため、産業界、政府、学界、労働組合の代表が参加するCLAの委員会が、旧正月の休み明けに会合を開くことを表明した。

「過去数年間の経済成長は年率4~5%であったにもかかわらず、賃金は相対的に低下している」と李主委は語った。

行政院主計処(DGBAS)の統計によれば、昨年の製造業労働生産性の伸び率は5.04%であったのに対して、平均月額賃金の伸びは1.49%に過ぎず、その結果、平均単位労働コストは2.77%低下している。

李主委は、失業率が4%未満に低下し、多くの産業で労働力不足が報告されていることを指摘した上で、これまで国内各産業に対して「適切な賃上げ」を要請してきたと述べるとともに、「価格が上昇すれば供給が増えるのは経済の基本原理だ」とした。

さらに李主委は、CLAとしては「外国人労働者の基本賃金引下げは適切ではない」と確信しているとし、この理由として、そのような行動に出た場合、国内賃金が更に侵食され、国内企業の外国人労働者利用を後押しすることになると述べた。

同時に李主委は、陳水扁総統が2004年3月に民進党の現職総統として再選を目指して選挙運動をおこなった際の「労働者への六つの保証」のうち、五つをCLAは実現したと語った。

この五つとは、(1)雇用の拡大と失業率の4%未満への引き下げ、(2)台湾の草の根労働者の権利保障と中国からの肉体労働者移入禁止、(3)職業技術訓練補助金の2万NTドル(約606.06米ドル)への引き上げ、(4)労働者終身年金制度の創設、(5)総合的労働者セーフティーネット構築の完成――のことである。

唯一実現されなかった項目は、「労働基本三権」つまり団結権、団体交渉権、団体行動権を憲法に明記することであった。

CLAによれば、失業率は2002年に5.17%だったものが昨年は3.91%に低下しており、また労災死亡者数は、2000年の100万人当たり77人から、昨年は100万人あたり41人に低下している。

2. 最低賃金問題への対応

CLAが全職種の労働者の最低月額賃金を1万5840台湾ドル(約480米ドル)から2万台湾ドル(約606.06米ドル)または2万2000台湾ドル(約666.67米ドル)に引き上げるよう提案したとされていることについて、鄭文燦新聞局長は、2月の内閣(行政院)スポークスパーソンと同様、政府が提案の検討を開始したことを否定した。

「最低賃金の引き上げは単なる検討課題であって、政策になってはいない」と鄭局長は語った。

鄭局長のこの発言は、CLAの李應元主委が、草の根レベルで労働者の権利と利益を擁護するため、CLAでは賃金引上げを求めていくと語った翌日におこなわれた。

前記のとおり李主委は、CLAで旧正月の休み明けに会議を招集し、過去9年間にわたって月額1万5840NTドル(約480米ドル)に据え置かれている全国最低賃金の調整について議論するとしている。李主委は、個人的には最低賃金の引き上げを支持するが、調整の是非とその引き上げ幅は、CLAの委員会で決定すると語った。

「これは行政部門だけで決定できる問題ではない」と、鄭局長は語っている。また、「決定前に、学識者や各業界の代表から意見を聞く必要がある」としている。

現行の労働基準法第21条では、労働者に支払う賃金は雇用者との交渉によって決定するが、基本賃金を下回ってはならず、また前項の基本賃金は、中央政府の所管官庁が規定し、行政院に提出して承認を求めるものとしている。したがって、基本賃金の最終承認権は、CLAにもその委員会にもない。

台湾の経済発展計画策定を担当する行政院経済建設委員会のフ・メイユエ委員長は、最低賃金を引き上げても、大部分の労働者にメリットがないと思われることから、引き上げには反対だと発言している。

フ委員長によれば、大部分の台湾人労働者の賃金は最低賃金をはるかに上回ることから、最低賃金引き上げの恩恵を受けるのは外国人労働者のみであり、台湾の全労働者の2%に過ぎない。しかも外国人労働者の場合でさえ、いったん賃金が上昇すれば仲介料支払額の引き上げを求められることから、所得のかさ上げは難しくなる。

CLAの提案に対しては、学識者の一部からも、低賃金労働者にとっては所得の引き上げよりも、むしろ雇用機会が減る結果となることから、メリットよりもデメリットの方が大きいとして、反対の声が上がっている。

「政府の行動によって、一部の労働者では最低賃金がその価値、つまり労働を上回ることとなり、雇用者が採用を控えたり、一部工場の撤退を招くこともありうる」、「結局損害を受けるのは、弱い立場の労働者だ」と、シンクタンク台湾智庫の理事長でエコノミストの陳博志は語っている。台湾智庫は、民進党政府の考えに近いとされている。

陳博志理事長は、CLAの立場は理解できるが、自分の立場はグローバルな経済的視野に基づくものであり、貧しい労働者や失業者の保護を目的としたものだとしている。

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