社会民主党、失業給付受給期間の延長へ
―党大会で採択、選挙向けに方針修正

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2007年11月

社会民主党(SPD)は、10月下旬の党大会で、第2期シュレーダー政権が推進した「アジェンダ2010」に基づく労働市場改革により大幅に短縮された失業給付受給期間を、中高年失業者について再び延長する政策を採択した。SPDのミュンテフェリング副首相兼労働社会相はこの改革路線の逆行に断固反対する姿勢を示したが、09年の連邦議会選挙を控え、ベック党首が提唱した有権者受けする政策が党員の圧倒的支持を集めた。このSPDの方針修正は連立政権の運営を今後益々困難にしていくものと予想される。

背景に、SPDの支持率低下

シュレーダー政権は03年3月、1)解雇制限法の緩和、2)失業給付受給期間の短縮、3)失業扶助と社会扶助の統合、4)連邦雇用庁の再編――などを盛り込んだ「アジェンダ2010」を発表し、労働市場改革の方向性を示した。これに基づき03年12月に労働市場改革法を制定し、それまで最長32カ月であった失業給付Ⅰ(失業保険財源に基づき従前所得の67%を支給、子供がいない場合は60%)の受給期間を、55歳未満は最長12カ月、55歳以上は最長18カ月に短縮した。また、同時期に成立したハルツ第Ⅳ法により、失業扶助と社会扶助を統合して、失業給付Ⅰ受給資格のない稼得可能なすべての生活困窮者に対して、定額の失業給付Ⅱ(税財源による月額347ユーロの基礎給付および住居費・暖房費)を支給する「求職者のための基礎保障制度」を創設した。それ以前は従前所得の57%(子供がいない場合は53%)の失業扶助を支給していた。

SPD政権が推進したこの福祉手当の大幅な切り下げは国民から激しい批判を受け、SPDは支持率を大幅に低下させた。05年9月に実施された連邦議会選挙の結果、SPDはキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)に3議席差で敗れ、第1党の座を明け渡した。05年11月に発足したCDU/CSUと SPDの大連立政権においても、元SPD党首のミュンテフェリング副首相兼労働相が年金支給開始年齢の65歳から67歳への段階的引き上げを断行し、労働組合などから激しい反発を受けた。他方、メルケル首相はEU政治の場での調整能力や気候変動への取り組み、両親手当導入などの家族政策が国民から評価され高い人気を誇っている。CDUが伝統的にSPDの得意とする社会政策の分野にも力を注ぐ中、SPDは自らの主体性維持に苦悩している。現在、SPDの支持率は25%でキリスト教民主同盟(CDU)の40%を15ポイントも下回る。SPDはさらに、旧共産党とSPD分裂派が6月に結成した左派政党「左翼」からも支持層を奪われる脅威にさらされている。

党首と労働社会相で激しい対立

長年「社会正義」の守護者を自認としてきたSPDにとって、08年の地方選挙、09年の連邦議会選挙に向けた、生き残りをかけた党の再生が喫緊の課題となっている。

ベック党首は10月下旬の党大会を前に、中高年失業者の失業給付Ⅰ受給期間を、45歳以上の労働者が失業前5年間に30カ月以上失業保険料を納めた場合は15カ月間、50歳以上の労働者が失業前5年間に36カ月以上失業保険料を納めた場合は18カ月間、42カ月以上保険料を納めた場合は24カ月間にそれぞれ延長する提案を行った。この提案はドイツ労働総同盟(DGB)の要求に基づき策定されたものである。ベック党首は、「長く働き失業保険料を収めた者は、この制度からもっと給付を受け取るべきであり、1年で失業給付Ⅱの受給者になってしまうのは誤りである」と主張していた。これに対しシュレーダー政権時代にSPD党首を務めアジェンダ2010の推進に尽力したミュンテフェリング副首相兼労働社会相は、失業者がより速く、より懸命に仕事を探すよう動機付ける労働市場改革によって中高年の就業率が大幅に上昇し失業者も減少している点を強調し、改革の本質に逆行するベック党首の提案を痛烈に批判した。この二人を中心とする失業給付ⅠをめぐるSPDの激しい論争は党大会まで約1カ月間続いた。

ドイツ使用者団体連盟(BDA)、ドイツ産業連盟(BDI)、ドイツ商工会議所(DIHK)、ドイツ手工業中央連盟(ZDH)の経済4団体は、「世界の他の地域が必要な改革を断行しているときに、ドイツが後ろ向きの人気取り政策に陥ってはならない」「アジェンダ2010の核心をうやむやにし、破棄しようとする者は現在の好調な経済を危うくする。景気回復を台無しにするな」とする共同声明を発表した。

ライン・ヴェストファーレン経済研究所(RWI)、マクロ経済研究所(IMK)、ハレ経済研究所(IWH)、Ifo経済研究所の4つの主要経済研究所も、連邦経済省から委託を受けて共同で作成した秋の経済鑑定書の中で、「失業給付受給期間の延長は、雇用政策的観点から非生産的だ。財政状況が改善したという理由で、成功を危うくするような改革の修正を要求するのは馬鹿げている」と主張した。研究所側は、シュレーダー政権の労働市場改革は「少なくとも失業の核心部分を撲滅する機会を提供し得る」2つの要素(失業扶助と社会扶助の統合および失業給付Ⅰ受給期間の短縮)を含んでおり、失業者が積極的に求職活動を行う圧力となるだろうと述べている。

党大会、社会民主主義再評価の新綱領採択

SPDは10月26日~28日の3日間、ハンブルグで党大会を開催し、ベック党首を95.5%の得票率で再選するとともに、社会民主主義の価値観を再評価する新しい基本綱領「ハンブルグ・プログラム」を採択した。基本綱領の改定は第2次世界大戦後わずか3回目のことである。労働社会政策については、(1)50歳以上の中高年失業者に対する失業給付受給期間の最長24カ月への延長(2)年金支給開始年齢の65歳から67歳への引き上げペースの緩和(3)時給7.5ユーロの全国最低賃金の導入(4)ミニ・ジョブ(月額報酬400ユーロ未満の就労)の労働時間を週15時間に制限(5)実習期間を終えた派遣労働者に対する同一労働同一賃金の実現(6)平均以上の教育訓練を実施する企業に対する特別ボーナスの支給(7)家族を介護する労働者に対する10日間の有給休暇と疾病給付金の導入(8)27歳未満の子供(学生の場合)を養育する扶養者に支給される児童手当(第1子~第3子は1人月額154ユーロ、第4子以降は1人月額179ユーロ)の支給対象を09年から25歳未満に引き下げる政府案の撤回――などの方針が承認された。

ベック党首は大会で、「人々は高齢の求職者が低い手当しか受給できないことを不公正だと考えている」として、失業給付受給期間延長の必要性を強調した。また、この政策は改革の逆行ではなく、「注意深い修正」であると述べた。

シュレーダー前首相は、「アジェンダ2010は手段であって最終目標ではない。それは修正可能である」とベック党首への支持を表明したが、「アジェンダ2010の変更は、改革をより良くするものでなければならず、単なる人気取りのための変更であってはならない」と釘を刺した。

メルケル首相は、「我々は、社会民主党が要求しているような社会主義への回帰を必要としない。我々はそれを東ドイツの時代にさんざん経験した」と述べ、連立相手の政策転換を批判した。同首相は、「政府の政策の評価基準は雇用創出と経済回復であり、失業給付Ⅰ受給期間の延長はコストの増加を招くものであってはならない」と述べた。CDU/CSUは、失業給付Ⅰの中高年に対する支出の増加は若年層に対する支出の削減で埋め合わせなければならないと主張している。

SPDのベック党首は、大会における高い支持率による再選を背景に、アジェンダ2010に基づく労働市場改革の部分的撤回を強く要求するものと見られている。09年に予定される連邦議会選挙に向けて、連立政権の運営は今後益々困難になっていくものと予想される。

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