大統領の社会改革案に猛反発、スト相次ぐ

カテゴリー:雇用・失業問題労使関係

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  • 国別労働トピック:2007年11月

サルコジ大統領が9月に発表した一連の社会制度改革案に対し、労組が猛反発し、相次いでストライキを実施している。大統領は、「今日の社会保障制度や雇用関連の諸制度を維持することは財政的に不可能だ。今までの制度では機会の均等を実現できないばかりか、労働意欲の低下を招いている」と強調。労使対話の重視こそうたっているものの、その性急な改革実施に対し、労組は反発を強めており、ストは大規模化の傾向を示している。

公的年金の「特別制度」が焦点に

公的年金制度の「特別制度」の改革に、労組側は最も反発している。フランスでは、公共部門の職員のなかでも、国鉄職員やパリ交通公団職員、電力・ガス公社職員、鉱山労働者、休日出勤の多いオペラ座の職員などは、「重労働者」とみなす「特別制度」があり、年金の負担金支払期間が軽減されている。これらの特別制度では、年金受給者がおよそ110万人であるのに対して、保険料拠出者は50万人程度にとどまっており、国からの補助金が非常に高額となっている。さらに、55歳以下で年金を受給開始することが可能な場合が多く、「特権的」と批判の声が上がっていた。

大統領は、ベルトラン労働大臣に労働組合など関係当事者との協議を開始するよう指示。同大臣は、9月下旬、労働組合との協議を行い、10月3日、国民議会で「特別制度」の改革案を正式に発表した。改革案では、2012年までに、完全年金(フルペンション)の受給に必要な保険料拠出期間を現行の37.5年から40年に引き上げるとしている。

失業保険部門を統合・合理化

失業保険部門の統合と合理化策も労組の反発を招いている。公共部門に属するANPE(公共職業安定所)と失業保険制度の運営組織で民間部門に属するUNEDIC(全国商工工業雇用連合)の統合が打ち出されている。

フランスの失業保険制度は根拠となる法令がなく、労使の代表によって定められた協約を政府が承認するという協約制度がとられている。全国レベルで全職域に共通の合意を労使が形成し、その合意を政府が承認する。保険料は被用者と雇用主の双方が拠出し、制度の運営はUNEDICとその地方機関であるASSEDIC(商工業雇用協会)によって行われる。

この制度のもとでは、失業者が失業保険手当を受給するには、まずANPEで求職者登録をしたうえで、給付機関であるASSEDICに出向かなくてはならない。しかし、ASSEDICはANPEとは別の場所にあることがほとんどで、再就職活動を少しでも早く開始したい失業者にとっては大きな負担となっていた。こうした状況の改善を目的に、2006年、ANPEとUNEDICはワンストップサービス化に合意したものの、人員削減や個々人の能力等を無視したポストへの異動を強いられるなどとし、労組側は反発していた。

サルコジ大統領は、「ひとつの窓口にアクセスすればよくなり、求職者にとっては非常に有益である」と主張に対し、ラガルド経済・産業・雇用相に統合の具体的なプロセス策定を指示した。ラガルド大臣は、労使と協議、総合に必要な法案を2007年12月に国会へ提出し、2008年初めの成立を目指す考えを明らかにした。

業務のネットワークについては、現在30カ所にあるASSEDICがANPEの事務所と統合し、全国で28の地方部署に再編される。ひとりの失業者の受入れ、登録、フォローアップ、失業補償の給付はすべて同じ担当者が行うことになる。新組織(暫定的に「フランス雇用(France Emploi)」と呼ばれる)は、私法上の機関で公共サービスの実施を任務とする。職員ひとり当たりが担当する求職者の数は、現在の60人以上から半分に減る見通し。また、ANPE(3万人)とUNEDIC(1万4000人)の職員の身分も統一するが、同大臣は、合併による人員削減はないと強調し、労組側の不安を払拭するように努めている。

スト、1995年以来の規模に

このほか、週35時間労働制の柔軟的運用や中高年の雇用促進策の推進などを大統領は打ち出している。大統領は、「なぜ、賃金労働者が、余暇ではなく報酬を選ぶことが許されないのか?」とし、政府が労使と協議し、労働時間に関する企業別や産業別の労使交渉を促すことを表明。また、休暇(ヴァカンス)を取らずに働き、その分の報酬を得ることを可能にする考えも明らかにした。中高年の雇用促進については、「就業を継続したい人にペナルティーを与えたり、労務管理上、企業や官公庁に中高年の排除を促している社会制度を廃止するよう政府に指示する」とし、65歳未満での定年制度の廃止やプレ年金への課税強化、中高年の失業給付受給者を対象とする求職活動免除の段階的廃止を挙げた。

大統領は、十分な労使対話を経てこれらの改革を実現すると主張しているが、労組は「改革案は全て使用者側の期待に沿うもので、被用者にのみ努力を求めている。我々が期待する購買力の向上や賃上げに関して具体的な提案が何ひとつない」と批判。特に年金制度改革に猛反発し、10月18日、フランス全土で大規模ストを敢行した。1995年のジュペ・プラン以来の規模で(注1)、フランス新幹線(TGV)は5%ほどしか運行されず、在来線も大部分が運休、国際列車のユーロスター(パリとロンドンを結ぶ)も2割が運休した。パリでは、地下鉄、バス、郊外電車がほぼ全面運休となり、市民は、自転車や自家用車、タクシーでの移動を強いられた。10月25日からは、待遇改善を求めるエールフランスの労働組合がストに突入し、数日間、空のダイヤが乱れた。また、27日からはオペラ座でもストを敢行、公演中止となった。さらに、11月13日には、国鉄職員に加えて、フランス電力公社EDFの職員のスト、そして11月20日には国家公務員のストが予定されている。

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