「ブルーカード」制度導入を提案
―域外からの高度技能移民の拡大へ

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2007年11月

欧州委員会は10月、EU域外からの高度技能移民の受け入れに関する新制度を導入するための指令案を提案した。米国のグリーン・カードに倣って「ブルー・カード」と呼ばれるこの制度は、高度技能移民がEU域内の任意の国で就労することを可能とするもの。現在、技能労働者の移民先として有力なアメリカやカナダ、オーストラリアなどに対抗して、域外からの高度技能労働者の獲得を目指す。

米国などに対抗、手続きなどを簡素化

人口の高齢化や出生率の低下などによる労働力不足への懸念から、EUでは移民政策の見直しが進められている。ユーロスタット(欧州委員会の統計局)によれば、域内の労働力人口は、2050年までに2500万人が65歳に達し、また今後20年だけをみても、域内の労働者不足は様々な技能レベルで2000万人にのぼる。欧州委員会は、この不足分を移民によって補うことを加盟各国に提言している。

なかでも重要な課題は、高度な技能を持つ移民労働者の確保だ。特に、IT技術者やエンジニアなどの職種では、既にオランダなどで技能労働者不足が顕在化している。しかし、技能を持った移民労働者の多くは、アメリカやオーストラリアなどに流れている(注1)。EUはその対抗策として、域内共通の高度技能移民の受け入れ制度を議論していた(注2)。欧州委員会が2005年12月に採択したコミュニケーション「合法的移民に関する政策プラン」は、これを5本の指令策定の提案としてまとめたもので、約2年の議論を経て、この9月に欧州議会で可決された。

今回、「政策プラン」の一環として提案されたブルー・カード制度は、3年以上の業務経験と、各国の最低賃金の3倍以上の給与が支払われる1年以上の雇用契約を条件に、域外からの労働者が所定の期間、EU加盟国で就労することを認める。取得から次期更新までの2年は、同一国内での就業が義務づけられるが、更新以降は任意の加盟国で就労が可能となる。通常の就労許可より手続きの所要期間を短くし、また家族の呼び寄せの条件も有利にする。なお、定住権は認めておらず、また頭脳流出が懸念される国での積極的な募集活動も控えることが要請されている。後進国の懸念に配慮して、一定期間の就業後に移民労働者が帰国することを前提とした、「頭脳循環」(brain circulation)という考え方を提唱しているためだ(注3)。

なお、欧州委員会は「ブルーカード」指令と併せて、域内への移民に係る手続きの簡素化ならびに均等処遇に関する指令案を提案している。現在、国によっては別個の申請が必要な就労許可と滞在許可を申請・発行とも一体化し、手続きの円滑化をはかる。また、合法的移民労働者に対する労働条件、教育訓練、資格制度の適用、また社会保障や税控除等の適用に至るまで、自国民やEU市民と平等な取り扱いを加盟国に義務付けるねらいだ。

英国など適用除外を申請か

「ブルーカード」指令案に対しては、ドイツ、オーストリア、オランダなどが、既に反対の立場を表明している。移民政策を含め、自国の労働市場政策の自律性が侵害されるおそれがあるというのが大きな理由だ(注4)。また、EU域内の人の移動の自由化に関する各国間合意である「シェンゲン協定」(注5)に参加していないイギリスとアイルランド、並びにデンマークは、適用除外を申請するとみられている。うち、イギリスは、「ポイント制」(技能・経験、年齢等に応じた加点により、入国の是非を判定する制度)を2008年3月から導入する予定で、当面はこれを運用すると予想されている。またアイルランドも同様に、独自のグリーンカード制度を維持する見通しだ。さらに10月には、チェコが新たにグリーンカード制度(不足職種に係る3年間の就労・滞在許可)を導入する意向を明らかにしている。

EUレベルの労使も、「ブルーカード」制度の導入自体には基本的に賛同しているものの、その中身は複雑だ。使用者団体であるビジネス・ヨーロッパは、世界規模で拡大する高度技能人材の市場から欧州が利益を得る必要性を強調、またこれまで続いてきた欧州からアメリカへの頭脳流出に伴う損失を防ぐ意味でも、同制度に賛同している。一方、欧州労働組合連合(ETUC)は、域内で求められる高度技能労働者とそれ以外の労働者の間の線引きは、実際には難しいのではないかとの疑問を呈している。人材不足の業種に関しては、域内の技能労働者を活用する努力を行うべきとの考えだ。これ以外にも、移民労働者に対する処遇その他の差別の問題や、移民労働者の増加による域内労働者の労働条件の悪化、教育訓練機会の減少などへの懸念を表明している。

併せて、不法移民対策の強化も

EUは、合法的移民の受け入れ拡大に向けての制度の整備とともに、不法移民や人身売買に対する取り締まりの強化も迫られている。EUに流入する不法移民は毎年約50万人という。アフリカなどからの不法移民の主な入口となっているスペインなどEU南部の各国に対し、現在、EUは流入防止の支援をしており、その効果が上がりつつあるとも指摘されている。

最近では、加盟国の拡大によって、EUの域内・域外の境界線(外部国境)が変わってきている。2004年に新規加盟した東欧諸国(キプロスを除く9カ国)と旧加盟国等の国境管理が、シェンゲン協定に基づいて今年末には廃止される見込みだ。しかし、旧加盟国の間には、新規加盟国の国境警備体制に対する不信感が根強いのも事実だ。

欧州委員会は、送り出し国と協力して移民問題の適正化をはかるため、2007から2013年までのプログラムに3億8000万ユーロを投じるほか、不法移民の雇い主への罰則強化に向け、法制化を進めている。

なお、前述の「政策プラン」によれば、欧州委員会は域内移民に関する3本の指令(それぞれ、季節労働者、企業内異動、有給研修生制度に関する指令)を2009年までに策定し、移民政策の整備と一層の共通化をはかる予定だ。

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