経済成長、労働力不足緩和に寄与
―内務省報告、移民受け入れを評価

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2007年11月

内務省は10月、他省庁と共同で作成した「移民の経済的、財政的影響」と題する報告書を発表した。移民の近年の増加について、経済成長や財政状況の改善に寄与するとともに、高齢化に伴う労働力不足緩和の一環を担うなどと、積極的な評価を下している。また、内務省は、受け入れる技能労働者の質的向上に向けて選択基準を整備し、同時に不法移民を阻止する国境警備体制を強化する移民制度改正の方針を改めて示した。こうした政府の積極策の一方で、移民の急激な増加による公共サービス面の拡大を余儀なくされている地方自治体からは財政支援を政府に求める声が出ている。

技能水準・平均賃金、イギリス人を上回る

報告書は、人口構成、財政・経済、労働市場、就業構造などの視点から、移民の影響を分析している。

  • 2005年半ばから2006年半ばにかけての長期移民(1年以上、イギリス人含む)は、移出が38万5000人、移入が57万4000人で、18万9000人の流入超過となった(注1)。今後は年19万人のペースで移民が増加すると推計している。
  • 移民の経済成長への寄与は2006年で約60億ポンドと推定される(全体の15~20%相当)。また、公共政策研究所(IPPR)の2003-4年についての推計では、移民は政府収入の10%に貢献(税金等)、政府支出の9.1%相当を享受(各種給付、公共サービス)している。長期的には、財政改善や労働力不足の緩和に寄与するとともに、高齢化に伴う国民負担率の増加幅を押し下げる効果が期待される。
  • 労働力人口に占める外国人(国外出生者)の比率は、1997年の7.4%から2006年には12.5%に増加した。外国人の就業率(68%)は上昇しており、イギリス人(75%)との差は縮小傾向にある。フルタイム労働者の平均で比較した場合、技能水準はイギリス国籍労働者より高く、より高度な職業に就いている比率が高い。この結果、2006年の週当たり平均収入額の424ポンドは、イギリス人労働者の平均である395ポンドを上回っている。ただし、近年の外国人の賃金水準の低下とイギリス人労働者における上昇により、その差は2001年の76ポンドから2006年には28ポンドへと縮小している。なお、失業への影響は観察されていない。最も低い賃金水準の労働者の賃金に対してわずかな負の影響がみられるが、このグループについても賃金は上昇しており、これには最低賃金制度の効果もあると考えられる(注2)。
  • 新規EU加盟国である東欧諸国(A8)を除いた外国人の業種・職種別の分布は、建設業で比率が低く、専門的業務で高いことを除けば、イギリス人と大きな違いは認められない。
    一方、A8からの移民については、業種別には流通・宿泊・飲食店業(24%)、製造業(21%)、建設業(14%)、職種別には初級の職業(elementary occupations)(38%)や加工・工場労務・機械操作(16%)などで比率が高い。
    移民の増加は、国内の労働力に不足している技能を補完することにより、イギリス人労働者の生産性を直接的に高めているほか、国内経済に必要なサービスを提供することにより、イギリス人労働者が他のより適した職に就くことを通じて、間接的にも生産性に寄与している。

ポイント制導入、英会話能力チェックも

報告書の発表にあわせて、内務省は、今後1年間に予定している移民制度改正プランについて改めて方針を示した。中心となるのは、2008年3月から段階的に導入される「ポイント制」(注3)だ。欧州経済地域(EEA)外からの移民に対して、技能・経験、年齢等に応じた加点により、入国の是非を判定する。受け入れ基準の設定など、その運用にあたっては、Migration Advisory Committee(政府の諮問機関として、労働市場への影響や技能労働者の不足業種の判定等を行う。有識者などで構成する予定)と、Migration Impacts Forum(地域に対する社会的影響や、公共サービスを通じたその対応などを分析。移民担当大臣・コミュニティ担当大臣をトップに、政労使で構成)が政府に対して提言や情報提供を行う。

一方、港や空港での国境管理体制の強化の方策としては、国境移民庁(Border and Immigration Agency)に税関及び滞在許可発給機関(UKVisas)を編入し、政府とは独立の組織として拘束権など新しい権限を与える。また、出入国手続きの電子化(これに伴い、1997年以降廃止されていた出国管理を復活)や、難民認定作業の迅速化(40%について6カ月以内の解決をはかる)、重大な犯罪を犯した外国人を自動的に国外退去とするなど、手続きの効率化をはかる。

併せて、EU域内や一部関係国を除く外国人(世界の四分の三の人口に相当)に対する査証申請時の指紋押捺の義務化や、国内に居住する外国人への生体認証IDカード(就労の可否を含む情報が記載される)の付与などを予定している。さらに、外国人労働者の入国申請に際して雇い主(sponsor)となる資格をライセンス化し、不法移民を雇用するなどの法律違反に対しては、1万ポンド以下の罰金とともに、ライセンスの剥奪もありうる。(注4

なお、ポイント制については、英語能力の証明を新たに要件として加えることがこの9月に政府によって発表された(注5)。これにより、技能移民労働者はイギリス政府が認定した試験などで、英会話能力などが一定水準以上であることを示さなければならない。政府は、2006年のEU域外からの技能移民労働者9万5000人のうち3万5000人が、政府の設定する基準に達していないとみており、制度導入後の大きな影響が予想される。

自治体からは財政支援の声も

政府の楽観論に対して、地方自治体では外国人移民の増加による公共サービスや財政への圧迫を訴える声が強い。11月初め、イングランドとウェールズの500弱の地方自治体が構成する地方自治体協会(Local Government Association:LGA)は、独自の調査をもとに、A8などからの移民の増加が地域に及ぼしている影響について報告書を発表した。移民の受け入れによる利益は認めつつも、その急激な増加が、教育・住宅供給・医療など地域の公共サービスの維持を難しくしている、というのがその内容だ。また、犯罪の被害にさらされやすい移民や貧困家庭の児童の保護の必要性も併せて指摘している。LGAはこれらの問題への対策費として、新たに年2億5000万ポンドの予算投入を政府に要請、また調査等によるデータの整備や実態把握や、地域の実状に沿った予算配分などを求めている。

地域での外国人同化政策の必要性については政府も認めており、10月には、今後3年間で5千万ポンドを投入する新たな政策パッケージの導入を決定している(2007年の予算額は200万ポンド)。これまで柱としてきた外国人に対する翻訳サービスや、特定のマイノリティ・宗教グループ等を代表する団体への援助といった支出内容を見直し、英語教育などで外国人の社会統合を支援する団体への財政援助に転換していく。また併せて、移民増加による摩擦に対応する専門家チームを地域ごとに設置するとしている。

ただし一方で、外国人向け英語コース(English for Speakers of Other Languages:ESOL)の無料提供を原則廃止し、受講者(もしくは雇用主)に費用の一部を負担させた、より簡易な「仕事向け」英語コース(ESOL for Work)を新設するなどの効率化も進めている。これには、受講期間の短期化による大量の受講待ちの解消とともに、現在仕事があって、長期滞在を認められている移民に対して、優先的に受講資格を与え、実用的な英語の習得による生活の向上を支援する意図がある。

LGA報告書は、同化政策における英語教育の重要性を強く主張、こうした効率化の方針にも再検討を促してる。

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