ディーセント・ワークが世界的に不足
―ILOが主要労働指標最新版を発表

カテゴリー:労働法・働くルール統計

ILOの記事一覧

  • 国別労働トピック:2007年10月

ILO(国際労働機関)は9月2日、隔年で発行している主要労働指標(略称KILM)の最新版となる第5版を発表した。同報告書によると、米国が労働生産性で世界をリードしている図式は変わっておらず、むしろ他の大半の先進経済国との生産性格差は拡大しつつあるという。生産性が最も低いのはサハラ以南アフリカで、就業者当たりの生産性水準は先進国労働者の12分の1となっている。一方、一日2ドル未満で暮らす貧困労働者が約13億人いる現状について、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の必要性を訴えている。

KILMとは

KILM(Key Indicators of the labour market-KILM)とは世界及び地域の推計値並びに各国データを用いて世界の労働市場の包括的な分析を示すもの。労働市場の20の主要指標を用いて、雇用状況と求職者の特性、教育水準、賃金及び報酬費用、労働生産性、働く貧困層などに関する世界の状況を幅広く分析している。1999年に初版が発行され、今回で第5版となる。今回の報告書では、過去10年間に生産性水準は世界的に上昇を続けているものの、先進国とそれ以外の国とでは依然大きな格差が存在するという実態が明らかにされている。

米国が世界をリード、依然大きい格差

米国における2006年の就業者当たりの付加価値額は6万3885ドル。続くアイルランド(5万5986ドル)、ルクセンブルグ(5万5641ドル)、ベルギー(5万5235ドル)、フランス(5万4609ドル)・・日本(4万4877ドル)を大きく引き離して先進国中トップだった。ただし、その米国についても年間労働時間で見ると他の先進国労働者よりも長いという傾向があり、その結果労働時間当たりの付加価値額で見るとノルウェーが37.99ドルでトップとなっている。

東アジアでも生産性水準の伸びは10年前のほぼ2倍と急上昇した。労働者当たりの生産量が1996年には先進国の8分の1に過ぎなかったものが、2006年には5分の1にまで差を縮めたが、まだまだ米国に追いつけるレベルではない。一方、東南アジア・太平洋の水準は先進国の7分の1、南アジアは8分の1となっている。

また、中東と中南米・カリブでは、就業者当たりの付加価値額が先進国の約3分の1、中・南東欧(欧州連合非加盟国)とCIS諸国では3.5分の1、北アフリカは4分の1となっている。生産性が最も低いのはサハラ以南アフリカで、就業者当たりの生産性水準は先進国労働者の12分の1であった。

ディーセント・ワークが世界的に不足

KILM第5版が訴えるもう一つの憂うべき状況は、ディーセント・ワークの不足である。報告書は生産年齢人口の3分の1に相当する15億人の潜在能力が十分活用されていないと指摘する。この根拠となる新しい労働力不完全活用の推計値は、世界全体で1億9570万人となる失業者数に、世帯員1人当たり1日2ドル未満で暮らしている13億人近い貧困労働者(ワーキング・プア)数を加えて算出された。失業者は働くことを希望してもその機会が与えられていないのに対し、ワーキング・プアは働いても貧困から脱却するのに十分な稼ぎを得ることができない人々を指す。ファン・ソマビアILO事務局長は、「数億人もの男女が長時間にわたって懸命に働いているのに、自分たち自身とその家族を貧困から抜け出させるのに必要な条件が与えられておらず、さらに貧困に落ちていく危険を背負っている。こういった人々の潜在生産力を引き上げることによって十分に活用されていない能力を開放させることを国際的な開発課題の最上位に据えるべきだ」と唱える。

潜在労働力の活用が課題

報告書はまた、全就業者の半数近くが貧困状況にあり、世界的にはこうした労働者の大半がインフォーマル経済で働いていると指摘する。こうした人々は社会保障や職場における発言権もなく、保護を受けられないリスクがより高い。特にサハラ以南アフリカや南アジアでは、労働者の7割以上がこのようなリスクのある雇用に就いているという。

さらに同報告書は、この十分に活用されていない労働力のほかに、世界全体で生産年齢人口の約3分の1が労働市場にまったく参加していないことも明らかにしている。生産年齢にある男性10人に2人が労働市場に参加していないのに対し、女性は10人に5人と非労働力率はさらに高い。この状況は過去10年間ずっと変わっておらず、女性の大きな潜在労働力が未活用であり続けていることを示している。

本報告書の詳細はILOジュネーブ本部広報局(Department of Communication, Email: communication@ilo.org, Tel: +41-22-799-7912) またはILO駐日事務所 (Email: ilo-tokyo@ilotokyo.jp Tel: 03-5467-2701)まで

資料出所

  • ILO駐日事務所

参考レート

関連情報