専門職不足の対策に重点
―政権任期後半の労働政策

カテゴリー:雇用・失業問題外国人労働者人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2007年10月

連立政権は8月23、24日の両日、ベルリン郊外のメーゼベルクで内閣会議を開き、任期後半2年間の政策を検討した。労働政策では、専門職不足の深刻化が最大課題で、その対応策として、中欧・東欧諸国出身技術者の受入れ制限を緩和することにした。同時に、自国労働者の教育・継続訓練制度の抜本改善策の策定も決定した。そのほか、1)郵便市場の自由化に対応して、郵便労働者に最低賃金の適用を拡大する、2)好景気による失業者の減少などのため、失業保険の保険料率を08年1月から現行より0.3%引き下げ3.9%とする――などが柱。

外国人専門職、留学生に労働市場を開放

ドイツは持続的好景気に加えて、工学・自然科学専攻卒業生の減少によって、深刻な専門職不足に陥っている。技術者や自然科学系の専門職に対する需要は今後も益々増加すると予想され、国際競争力の喪失要因となることが懸念されている。

連立政権はメーゼベルクの閣議で専門職不足への対策として、04年5月以降に欧州連合(EU)へ新規加盟した中欧・東欧諸国からの労働者受入れ制限措置を、機械、自動車、造船、電機関係の技術者に限って撤廃することを決定した。また、ドイツで学位を取得した外国人留学生の就労目的の滞在権を現行の1年から3年に延長することとした。ドイツの大学を卒業した外国人留学生は、これまで当該ポストに見合うドイツ人求職者が見つからない場合のみその職に就くことができた。今後はEU新規加盟国、第三国の国民双方とも、この優先審査を受けることなく就労できるようになる。

中欧・東欧諸国の技術者およびドイツの大学を卒業した外国人留学生は、当初有効期間1年の「EU労働許可」を取得する。さらにドイツ労働市場への参入が認められてから1年後に無制限の「EU労働権」を申請できる。これによってドイツ全域でのいかなる就労も可能となる。

政府はこれらの関連法規を11月1日付で改正する。

国家技能イニシアチブを策定

連立政権はまた、外国人よりも国内の労働力を優先的に活用するため、教育・継続訓練制度の抜本的改善策を盛り込んだ「国家技能イニシアチブ」を今秋までに策定する方針を示した。具体的には、州と協力して次の課題に取り組む。

  • 10年までに中途退学者の数を半減させるための連邦プログラム「第二のチャンス」を策定する。
  • 08年末までに、1)平均以上の職業教育を行う企業に対する「養成訓練ボーナス」、2)障害のある高齢者に対する養成訓練助成金、3)養成訓練代理人の導入、4)職業相談にかかわる人的資源の強化――などの施策を盛り込んだ「若者の教育と労働」構想を策定する。
  • 職業教育から大学教育への移行を容易にする。特に数学、工学、自然科学、技術の分野を中心に、1学年の大学進学率を40%に引き上げる(現在は35.3%)。
  • 15年までに継続訓練の参加率を50%に引き上げる(現在は41%)。連邦政府は各州に対し継続訓練同盟に関する提案を行う。

郵便事業に最低賃金

ドイツは90年、それまで国が行っていた郵便事業を公社化し、95年に株式会社化してドイツ・ポストを誕生させた。欧州連合(EU)は10月1日、域内郵便市場を11年1月から完全自由化する方針を決定した(中欧・東欧等11カ国は13年1月まで延期できる)。ドイツはこれに先駆け08年1月1日からドイツ・ポストの独占範囲(重量50g以下の書状等)を撤廃して、郵便市場を自由化する。

連立政権は8月24日の閣議で、労使の申請を前提に、「国境を超えるサービスに係る強制的労働条件に関する法律」(越境労働者派遣法)に基づく最低賃金の適用を郵便事業(郵便の収集、移送、配達)にも拡大する方針を決定した。これは郵便市場の自由化に伴い、新たに参入する企業による賃金ダンピングを防止することを目的としている。越境労働者派遣法は現在、建設産業のみを対象に、外国企業に対しても一般的拘束力宣言(注1)を受けた産業別労働協約の最低賃金および休暇手当に関する規定の遵守を義務づけている。新聞配達や小包配送などの業種は郵便物を配達しない限り最低賃金の適用を受けない。

政府の方針を受けて、統一サービス産業労組のヴェルディ(Ver.di)とドイツ・ポストが中心となって結成した使用者連盟の郵便事業協会は9月4日、郵便事業労働者約20万人を対象とする最低賃金協約(10月1日発効)に合意した。最低賃金の時給額は、郵便配達労働者が西部ドイツ9.8ユーロ、東部ドイツ9ユーロ、その他の労働者(事務部門など)が西部ドイツ8.4ユーロ、東部ドイツ8ユーロである。10年1月1日からは、東部ドイツでも西部ドイツと同じ最低賃金額が適用される。

ヴェルディ連邦理事会のコクシス氏は、「最低賃金協約は郵便事業労働者の公正で社会的な労働条件を実現するための重要な一歩だ」「我々は、ドイツ郵便市場の自由化で一層厳しさを増す条件の下、深刻化する社会的ダンピングから郵便事業を守るという使命を果たした。次の段階として、遅くとも08年1月1日までに合意された最低条件に対し一般的拘束力を宣言することを政府に要求する」と述べた。

08年1月からドイツ・ポストの独占範囲の郵便事業への参入が許可されるTNTポストやPIN グループなどの競合企業は、郵便事業協会に加盟せず別の使用者団体を結成した。郵便市場の自由化後もドイツ・ポストは、ユニバーサル(全国均一)サービスの提供を義務づけられる郵便事業に対する付加価値税の支払いが免除される。TNTポストとPINグループは、独占企業の賃金が業界全体の基準とはなり得ないとして高すぎる最低賃金水準を批判している。この2社を中心メンバーとする新しい使用者団体は、ヴェルディと別個の最低賃金協約を締結することをめざしている。

政府は9月19日、越境労働者派遣法の適用を郵便事業に拡大するための法案を閣議決定した。同法案の成立には連邦議会および連邦参議院の同意が必要である。連邦労働社会省は、郵便事業労使団体の申請に基づき、最低賃金協約の一般的拘束力を宣言することの可否について、労使団体の中央組織の代表各3名で構成される賃金委員会に諮問する。賃金委員会が反対した場合でも、労働社会省は越境労働者派遣法に基づき、最低賃金の一般的拘束力宣言を発令できる。ミュンテフェリング労働社会相は、08年1月1日までに郵便事業を越境労働者派遣法の適用範囲に取り込む日程に自信を示している。

失業保険料を引き下げ

好景気による失業者の減少や社会保険加入義務のある就業者の増加に伴い労働市場政策を管轄する連邦雇用エージェンシー(BA)の財政状況(注2)が大幅に改善している。06年には112億ユーロの準備金を積み立て、07年も50~55億ユーロの剰余金を見込んでいる。

政府は8月24日の閣議で、07年1月1日に6.5%から4.2%に引き下げた失業保険の保険料率を08年1月1日からさらに0.3%引き下げ3.9%とすることを決定した。また、これ以上の引き下げが可能かどうかを今年中に判断するという。その前提はBAが連邦の補助に頼ることなく11年までやっていける見通しが立つことである。

BAは、失業給付I(失業保険財源に基づく通常の失業手当)受給者が12カ月以内に就職できず失業給付Ⅱ(税財源に基づく長期失業者向け社会給付)を申請した場合、受給者1人につき1万ユーロの負担金(いわゆる「調整金」)を連邦に支払わねばならない。これは、05年にかつての失業扶助と社会扶助の一部を統合して「求職者のための基礎保障制度(失業給付Ⅱ制度)」を新設した際、積極的労働支援の給付や失業扶助受給者への給付(年間約62億ユーロ)に対するBAの負担義務がなくなる見返りとして、BAが連邦に対し「調整金」(06年は33億ユーロ)を支払うこととされたものである。政府はこの「調整金」を08年に廃止することを決定した。その代わりBAは08年から連邦予算の統合給付費と管理費の半分に相当する約50億ユーロの統合分担金を連邦に対して支払う。

08年予算では、「求職者のための基礎保障制度」の支出に前年度より10億ユーロ少ない350億ユーロが計上された。このうち210億ユーロが失業給付Ⅱの支給に充てられる。給付受給者の07年の住居費は、連邦が31.8%負担し、残りを地方自治体が支払っている。08年予算における連邦の住居費負担は、前年より4億ユーロ少ない99億ユーロが計上された。

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