新たな年金制度「国民年金貯蓄制度(NPSS)」の概要を発表

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  • 国別労働トピック:2007年1月

イギリスの国民保険制度は、1942 年のベバリッジ報告に基づき、1946 年の国民保険法及び国民保険(業務災害)法の成立によって確立された。公的年金の部分では、75 年社会保障年金法の成立に伴う付加年金(所得比例年金)の導入など数次の改正を経た。79 年に成立したサッチャー政権は、付加年金の給付水準を段階的に引下げるとともに、適用除外(注1)制度の範囲の拡大などの大幅な見直しを図るなど、脱公的年金促進策を積極的に推進した。この結果、公的年金における財政上の問題は比較的小さいといわれるものの、老後生活の保障機能は十分とはいえないことから、ブレア政権は中・低所得者層の年金充実をはかる改革を推し進めた。

06年12月に出された白書では、職域年金未加入者を対象とする老後資金の積み立て促進策として新たに「国民年金貯蓄制度(NPSS:National Pensions Saving Scheme)を開始することが盛り込まれた。本報告では、NPSS導入までの背景とその概要について紹介する。

国民年金貯蓄制度(NPSS)導入への背景

イギリスの公的年金制度は、2階建てとなっており、1階部分は被用者と自営業者を対象とする共通の基礎年金となっている。被用者はその上で、2階部分の年金として(1)所得比例である国家第二年金(注2)(2)職域年金(注3)(3)個人年金(4)ステークホルダー年金(注4)のいずれかを選択する。年金の民営化が進んだ結果、現在では多くの被用者が国家第二年金から個人年金への転換を進めており、各年金の加入率は、(1)国家第二年金(34%)(2)職域年金(40%)(3)個人年金(同26%)となっている。この結果国家第二年金の加入者は、職域年金の適用がない零細企業に勤務し、かつ個人年金に加入する余裕のない一部の者という状況になっている。

しかし、基礎年金の満額支給額は、週当たり82.05ポンド(約17000円)と低く、国家第二年金についても平均所得額の40%水準程度の支給に留まることから、社会福祉に依存する高齢者が大きな問題となっている。2046年までに受給開始年齢を68歳に引き上げが予定されていることから、雇用年金省の諮問機関である年金委員会を中心に、低所得者の退職後所得の安定をはかる制度の導入を含めた年金制度の見直しの議論が進められてきた。06年4月、同委員会はNPSSの新設などを目玉とする年金改革案を政府に提出、今回の年金制度改革案に大きく反映された。

国民年金貯蓄制度(NPSS)の概要

2012年に導入予定の「国民年金貯蓄制度(NPSS)」は、職域年金未加入者を強制的に加入させることによって、低所得者の老後資金の積み立てを促進するねらいがある。財源は被用者本人と事業主がそれぞれ税引き後所得(年間5000~3万3500ポンド)の4%、3%を保険料として負担し、政府が減税措置の形で1%を拠出することでまかなわれる。最大1000万人が年間40億~50億ポンドを積み立てることにより、平均所得の15%水準まで支給が確保されるとしている。

NPSS導入に伴う事業主のコストは年間約28億ポンド、賃金支払額の約0.7%にのぼると見られ、中小企業はNPSS保険料の強制拠出に反発。政府は負担軽減のため保険料を、3年かけて段階的に3%にひきあげるとしたが、英国産業連盟(CBI)、技術者雇用者連盟(EEF)、小企業連盟(FSB)は、支援策が不十分として、追加支援がなければ社会保険料負担の切り下げ要求を検討すると示唆した。一方、全国年金基金協会(NAPF)も「より充実した職域年金制度を持つ企業がNPSSに合わせて切り下げを行なう可能性が高い」としてNPSS導入によるマイナスの見方を表明している。

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