総選挙に向けて「雇用のマニフェスト」と「利益のマニフェスト」
9月17日の総選挙にむけて政治論戦は最終段階に入っている。与党である社会民主党と緑の党、左翼党が「利益のマニフェスト」を掲げる一方で、保守党、自由党、中央党、キリスト教民主党の4党が参加するスウェーデン連合は「雇用のマニフェスト」を掲げている。
社会民主党はマニフェストの中で、さまざまな社会保険の改革を訴えている。失業手当、傷病手当、両親休暇手当の増額や歯科検診費用の無料化を公約として掲げる。
一方で、スウェーデン連合は現政権の政策上の弱点である雇用創出を政策の中心に据えた。所得税や低所得者層の税率を引き下げることによって、労働市場再編を促し、ビジネス風土を改善し、企業が雇用しやすい環境を整えようとするものである。若年者失業対策も政策課題に入れている。
上記のような各会派のマニフェストに対して、支持者の目はそれほど好意的ではない。社会民主党支持者の間では、「利益のマニフェスト」に対して、ビジョンや新規性に欠けていると非難する声が多く聞かれる。他方、スウェーデン連合を支持する経営者も、ビジネス環境を改善することには賛成であるが、スウェーデン連合が労働関係法制の重要な改正問題に関して何ら公約を掲げていないことに失望している。
確かに、現社会民主党政権下におけるスウェーデン経済は良好だといえる。2006年の第2四半期のGDP成長率は5.5%を記録した。だが、雇用者数の増加は0.7%にとどまっており、経済成長が雇用の増加を促進してはいない。「雇用なき成長」と揶揄されている。
その背景にあるのはスウェーデンにおける現行の賃金形成システムのようである。グローバル化の進展の中で輸出産業は高い利益を得ているはずだが、その利益は労働者に還元されているとは言いがたい。現在の賃金形成システムの下で経営者によって企業内に留保されてしまっているという見方もある。経済成長によって公共部門、民間部門を問わずサービス産業の労働者は恩恵を受けるべきであるが、十分に還元されているとは言いがたい。経済がグローバル化する以前は連帯賃金政策(注1)によってすべての被用者が公正な利益分配を得ていた。経済のグローバル化後、現行の賃金システムは必ずしも機能していない。こうした中で社会民主党政権や労働組合はどのような役割を担っていけるのだろうか。ほとんどの既存の3年の賃金協定は2007年3月に失効することになる。新たな団体交渉システム形成に向けて重要な時期にさしかかっている。
注
- 1941年のスウェーデン労働総同盟(LO)の大会おいて打ち出された理念。基本理念は、産業間や企業間での生産性の違いにかかわらず同一労働に対して同一賃金水準が実現されなければならないというもの。「完全雇用」と「平等」という2つの目標を実現するためにとられてきた政策の1つだが、近年、伝統的な考え方を修正する動きも見られている。
参考
- 委託調査員レポート
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