7月の失業率8.9%、4年3カ月ぶりに9%を割る
―CNE(新しいタイプの雇用契約)の効果と主張する政府に、疑問の声も

カテゴリー:雇用・失業問題労働法・働くルール労使関係

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  • 国別労働トピック:2006年9月

フランスの失業率が低下を続けている。2006年4月から改善傾向にある失業率は、7月には8.9%にまで改善した。9%を割ったのは、実に4年3カ月ぶりのことである。ドビルパン首相は失業率の改善について「偶発的な出来事や人口構成上の結果ではなく、社会統合計画(注1)やCNE(新しいタイプの雇用契約)の導入(注2)などの政策の結果である」とし、現行の雇用政策が労働市場の改善に寄与していると主張。特にCNEについては、「小規模企業の採用凍結を解き、フランスで新たに創出された雇用の多くはCNEによるもの」と自信を見せた。さらに、「あくまでも最終目標は、07年末までに7%台にすることである」と強調すると同時に、目標実現に向けて今後も雇用政策に力を注ぐ意気込みを示した。これに対して社会党(野党)や労組は、失業率の低下は高齢化に伴う早期退職者の増加や夏期休暇中の求職者の減少などによる「一時的な改善」にすぎないと反発。導入から1年経過したCNEの効果についても疑問視する声があがっている。

CNE導入の経緯

2005年6月、失業率が10%を超える厳しい雇用情勢のなかで発足したドビルバン政権の最優先課題は、雇用創出であった。ドビルパン氏は首相就任の際、特に零細企業の雇用創出に焦点を当てたCNE(Contrat Nouvelles embauches)の創設を決定した。野党や労組さらには閣内からも反対の声があがる中、「企業にはより柔軟性を、労働者には新たな安心を与えるもの」と主張し、2005年8月4日、前倒しで実施に踏み切ったという経緯がある。

CNEは2年の試用期間を伴う期間の定めのない雇用契約(CDI)で、従業員20人以下の企業が対象。契約締結後の2年間は、企業側はいつでも解雇することが可能で、解雇の理由を説明する必要はない。ただし、契約開始から6カ月未満なら2週間前、6カ月以上であれば1カ月前に解雇を予告する義務がある。解雇の際に企業は、解雇する従業員に対してそれまで支払った賃金の8%を支払う。さらに、失業保険局(AASSEDIC)にもそれまでに支払った賃金の2%を支払わなければならない。なお、2年の試用期間後は、自動的にCDIへ移行される。

政府は2006年1月、CNEに続いて、対象年齢を26歳未満に限定し、かつ対象企業の規模を従業員数20人以上に拡大させたCPE(初回雇用契約)の創設を発表。しかし、学生を中心とした全国規模の反対運動が起こり同年4月に廃案に追いやられた。このCPEの先駆的措置として、CNEはその有効性が注目されていた。

CNEに関する政府の調査結果

雇用省は、2006年6月14日、CNEに関する中間調査結果を発表した。同調査は、雇用省統計局(DARES)と社会保険機関中央局(ACROSS)が、CNE対象企業3000社に対し、06年3月末から4月初めに実施したもの。

調査結果によると、06年3月までに締結されたCNEは約44万件。これは、中小企業(従業員数20人以下)で同時期に結ばれた雇用契約の10%にあたる。44万件のうち、80%が零細企業(従業員数10人未満)による雇用であった。

年齢では、26歳未満が42%で、26~40歳が40%。性別では、CNEで雇用された者の61%が男性で、その他の契約(53%)より高い。また、全体の4分の3(76%)がフルタイムで就労している。なお、産業別では大きな差はなく、CNEはある特定の産業に偏って採用されているわけではないといえる。

CNEで採用された者の70%が6カ月後も就業し続けており、契約解除率は30%。なお、CDIで採用された者の解除率は20%であった。CNEの契約解除は、およそ半数(45%)が従業員側からの申し出によるもの。企業側によるものは38%で、残りの17%は労使双方の決定による。企業による契約解除の主な理由は、(1)従業員の職務への不適応(2)従業員の職務上の過失――等となっている。

一方、CNEによる採用者のうち、2006年4月までにCDIに移行した者は1%にすぎない。同時期にCDD(期間の定めのある雇用契約)で採用された者がCDIへ移行したケースは6%となっており、CNEからCDIへ移行するケースはかなり少ないといえる。ちなみに、CDDからCNEへの移行は4%であった。

CNEによる採用を実施した主な理由は、(1)従業員の能力をより時間をかけて判断することができる(2)業績が悪化した際に余剰人員を抱えるリスクを軽減できる(3)雇用契約の解除の手続きが簡単である――の3点。実際に、自社の経営状態の悪化を危惧する企業において、CNEの利用が多いことが明らかとなった。逆に、経営状態が良好で、今後も良い業績を見込める企業では、最初からCDIを締結する場合が多い。

本調査では、「もしCNEが無かったとしても、(CNEで採用された者と同数の)従業員を採用していたか?」という質問がある。この問いに対し、およそ7割(69%)が、「CNEが存在しなかったとしても、同時期に、他の雇用契約(CDI、CDD、見習・派遣)で採用していた」と回答している。その他は、「CNEの新設により、従業員の採用が早まった」が22%、「もしCNEが無ければ、採用しなかった」が9%という結果であった。

政労使それぞれの見方

失業率の改善傾向が続くなか、ドビルパン首相は、「CNEは、小規模企業の採用凍結を解き、フランスにおける雇用創出に大きく寄与した」とその効果を主張。経営者団体の中小企業総連盟CGPME (Confederation generale des petites et moyennes entreprises)は、「CNEが無ければ、5万人以上の雇用が実現していなかった」という見解を発表し、「CNEが経済成長と雇用に良い影響を与えている」として同契約を高く評価している。

一方、野党や労働組合は、CNEに対する批判的な姿勢を崩していない。政府の報告書についても、「経営者のみを対象にしたもので、公平性を著しく欠くもの」と批判すると同時に、「CNEに関係なく70%の雇用は生まれていたということが明らかになった」として、CNEの効果が非常に低いことを主張している。

野党・社会党は、2007年の大統領選挙及び議会選挙で勝利した場合は「CNEを必ず廃止する」と、公約のひとつに掲げた。フランス民主労働同盟(CFDT)は、「CNEは、雇用をほとんど創出しなかったばかりか、僅かに生み出された雇用も非常に不安定な状況に陥れた、『新たなタイプの不安定雇用』にすぎない」と強く批判した。


こうした批判を受ける中で、ドビルパン首相はCNEの効果を主張し、強気な姿勢を崩さない。しかし、企業による解雇については、現段階ではまだ少ないものの、2年間の試用期間終了間際にそれが集中する恐れもある。2年の試用期間後に企業が、CNEをCDIへと転換するか、あるいは試用期間満了直前に解雇することになるかは、結局のところ、2007年夏になるまで分からないとする意見も多い。

さらに最近では、CNEで採用された者が「不当に解雇された」と労働裁判所に訴え出るケースも増えているが、企業側は「メディアが過剰に取り上げている」だけと反論。CPE(初回雇用契約)を廃止へと追い込んだような運動の盛り上がりは見られないものの、労組は「CNE撤廃へ!」と意気盛んである。

CPEの先駆的措置として、その有効性が注目されるCNE。今後は、07年春の大統領選挙も視野に入れた更なる議論の展開が予想される。

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