シカゴ市、大型小売店を対象に最低賃金を引き上げ

カテゴリー:労働法・働くルール労使関係

アメリカの記事一覧

  • 国別労働トピック:2006年9月

イリノイ州のシカゴ市議会は7月26日、年間売上高が10億ドル以上、売り場面積が9万平方フィート(8400平方メートル)以上の大型小売店に対して、最低賃金を引き上げるとする条例を全米で初めて可決した。

条例の概要と効果

イリノイ州の最低賃金(注1)は時給で6ドル50セントであるが、今回の条例は、大型小売店に限り、これを2007年7月から時給9ドル25セント、諸手当については時給換算で1ドル50セントとし、更に2010年までに時給を10ドル、諸手当を3ドル以上に引き上げなければならないと定めた。なお、年間売上高が10億ドルに満たない中堅以下の小売業は除外される。

この条例制定の動きは、2年前に小売業最大手のウォルマート(注2)がシカゴ進出を発表した時から始まっており、低賃金との批判が集まる同社のシカゴ出店を規制するねらいがあると言われる。シカゴ市のデーリー市長は、雇用と売上税収入が失われるとして条例導入に反対を表明していたが、条例案は賛成多数で可決された。この結果、ウォルマートは9月に予定していたシカゴ市内への出店計画の見直しを余儀なくされると見られ、同社の広報担当者は出店先を郊外に切り替える可能性を示唆している。

ただし、特定の産業あるいは企業を標的としたシカゴ市の条例は異例であり、ウォルマートは同業他社と条例の無効を求めて訴訟を起こす可能性が高いと見られる。2006年1月には、メリーランド州議会が大企業に一定の医療費負担を義務付ける法案を可決しているが(注3)、連邦地裁は7月19日、州独自の規制は州間の公平感を欠くとして、同法を無効とする判決を出した。

ウォルマートの対応

8月3日付通商弘報によれば、ウォルマートの出店に対する地元の反発には、(1)賃金水準が低い、(2)医療費の負担を半数以下の従業員に制限しているため(注4)、低所得の従業員の多くが公的医療制度に依存せざるを得ず、結果として地域の納税者の負担が増す、(3)女性差別、(4)同業他社が廃業に追い込まれる等の地域経済への悪影響――があるとされる。

低賃金で高収益を上げているとの批判をかわすため、ウォルマートは8月7日、入社直後の従業員を対象に、アメリカの約4000店舗のうち約1200店舗で賃金を平均で6%上げると発表した。また出店反対運動に対応するため、各地に地域対策課を設けて地域との良好な関係の構築を目指すとしている。7月24日には、新しい広報担当責任者として、民主党出身でクリントン政権時代、ホワイトハウス顧問を務めたレスリー・ダク氏を迎え入れた。労働組合寄りのダク氏を敢えて迎え入れたことについて、ある専門家は、ウォルマートが労働組合の批判をかわすための防衛策だと指摘している。

参考

  • 委託調査員レポート、7月26日付CNN 7月28日、8月9日付日経新聞

参考レート

関連情報