EU域内諸国の法定最低賃金に11倍の格差

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  • 国別労働トピック:2006年8月

2006年7月13日、EUROSTAT(EU統計局)の発表によると(注1)、EU諸国のうち法定最低賃金を設定している18カ国の間で、その水準の格差が広がっている。2006年1月の時点で最低水準のラトビアは月額129ユーロであるのに対し、ルクセンブルグでは1503ユーロとなっている。購買力平価で換算しても240ユーロと1417ユーロの依然大きな格差がある。現在加盟申請をしており、来年一月に加盟予定のブルガリアやルーマニアと比較した場合、その格差は更に拡大することになる。また、最低賃金を受け取っている従業員の割合は、スペインの約1%に対してルクセンブルグでは18%である。各国の最低賃金額は表1を参照。

表1:EU諸国等の法定最低賃金水準 (単位:%)
  ユーロ PPS 最低賃金を受け取っている
従業員の割合 (2004年)
ルクセンブルグ 1503 1417 18.0
アイルランド 1293 1050 3.1
ベルギー 1234 1184 -
オランダ 1273 1210 2.1
イギリス 1269 1202 1.4
フランス 1218 1128 15.6
ギリシャ 668 785 -
スペイン 631 722 0.8
マルタ 580 776 1.5
スロベニア 512 676 2.0
ポルトガル 437 510 5.5
チェコ 261 431 2.0
ハンガリー 247 401 8.0
ポーランド 234 379 4.5
エストニア 192 305 5.7
スロバキア 183 314 1.9
リトアニア 159 292 12.1
ラトビア 129 240 -
ブルガリア 82 191 -
ルーマニア 90 189 12.0
トルコ 331 517 -
アメリカ 753 779 1.4

※欧州統計局のホームページより作成

※PPS:The Purchaseing Power Standard(購買力平価)

ほぼときを同じくして、欧州委員会元委員長のドロール氏はEUレベルでの共通の最低賃金を設定すべきであるとする発言を行った。欧州社会党幹部らに向けた6月28日の発言で、社会対話の促進を強調する中で言及した(注2)。ドロール氏は、加盟国の発展レベルに見合った、欧州共通の最低賃金が必要であり、それは社会対話の枠組みでつくっていくべきだとしている。ドロール氏は欧州社会対話の重要性を強調し、社会対話のプロセスに関心を示さないUNICE(欧州経営者連盟)などによって、欧州における社会対話が後退してしまっていると指摘する。欧州機関はUNICEに話し合いのテーブルに戻るよう促し、その場で欧州共通の最低賃金や欧州ワークカウンシルの設立を実現すべきだと主張する。

制度上、厳密に言えば、欧州共通の最低賃金の設定は実効性のない主張である。なぜなら、条約において賃金は欧州社会政策の対象外と規定されているからである。だが、一方で現実問題として国境を越えたサービスの提供や派遣労働にまつわる賃金の問題が生じている。例えば、当機構海外労働情報でも紹介したスウェーデンやデンマークの事例がある。スウェーデンやデンマークは法定最低賃金を定めておらず、労使が締結する協約に最低賃金が定められている。

スウェーデン・2006年1月(注3)によれば、スウェーデンの建設案件をラトビアの建設会社が受注し、実際の現場をラトビアから調達してきたラトビア人労働者でまかなった。この工事現場で働くラトヴィア人労働者に対して、使用者はスウェーデンの建設労働者の賃金のおよそ半分の1時間当たり78SEKしか支払われていなかったことが問題となっている。スウェーデンでは、建設労働者組合との労働協約は、賃金について合意できない場合は、109スウェーデン・クローナ(SEK)の水準が適用されると規定している。

また、デンマーク・2005年6月(注4)によれば、同じように工事案件を受注したポーランドの企業がポーランド人をデンマークの建設現場に派遣させ、ポーランド人に対して労働協約で定められた最低賃金である時給137クローネを大幅に下回る賃金しか支払われなかったということが問題化している。

参考レート

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