全米各地で看護師が集団訴訟

カテゴリー:労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2006年8月

現地紙の報道によると、6月20日、イリノイ州シカゴ市、テネシー州メンフィス市、テキサス州サンアントニオ市、ニューヨーク州アルバニー市の四都市で、看護師が病院を相手取って集団訴訟を起こした。訴えによると、複数の病院の人事担当者が水面下で賃金水準に関する情報交換を行い、賃金の引き上げを抑制したとして、独占禁止法違反の疑いがあると指摘している。訴訟を受けた病院は、全米最大手の病院チェーンであるHCA、カトリック・ヘルス・イースト、シカゴ大学付属病院、ノースウエスタン大学付属病院などである。

看護師不足にも関わらず賃金は上昇せず

全米病院協会によると、全米の看護師不足数は2006年度は17万人、これが2020年には100万人以上に増加すると見込まれており、看護師不足が深刻化している。その一方で、看護師の賃金水準は過去10年間大きな変化がない。女性政策研究機関の調べによると、看護師の賃金は2003年度から減少傾向に入り、2004年度は前年に比べて6.4%の減少となった。

原告側の弁護士は、不当に賃金が抑制されたことによる年間一人当たりの損失額は、アルバニー市で約6000ドル、シカゴ市で約5000ドル、サンアントニオ市で約1300ドル、メンフィス市では約1万4000ドルに上ると推計している。原告側は、医療費が増加を続けるなか、看護師の賃金が上がらないのは複数の病院が不当な措置を取ったためだとし、賃金水準の決定を市場に任せるべきだと主張している。

看護師不足と労働環境悪化の悪循環

看護師不足は、長時間労働を招くなど看護師の労働環境を悪化させており、多くの看護師がキャリアの初期段階で燃え尽き症候群になり、看護師を辞めてしまうと言われる。深刻化する看護師不足をいかに解消するかをめぐり、専門家の意見は分かれている。看護師の賃金引き上げが鍵だとする専門家は、それにより看護師志望者が増え、結果的には労働環境の改善につながると予測している。他方、賃金だけでは問題の解決にはつながらず、過酷な勤務や人手不足の解消、看護師の地位向上が不可欠だとの意見もある。

看護師に対する複数のアンケート調査結果によると、看護師を辞めたいと思う理由として、低賃金を挙げるものが約半数いる一方で、病院の看護師に対する評価が低いことを不満としている者が多数いるとされる。

看護師不足への対応として、海外から看護師を受け入れるという議論もある。アメリカは海外、特にフィリピンから多数の看護師を受け入れており、その数はかつて数千人単位であったが、現在では年間約300人である。フィリピン人にとってアメリカは、賃金が高く、かつ英語能力が活用できることが魅力となっている。しかし、看護師や介護士等を組織するSEIU(国際サービス従業員労働組合)等は、海外からの看護師受け入れを増やすことについては、看護師の給与水準の低下を招く恐れがあるとの懸念を示している。

原告側は他の都市でも同様の疑いがないかどうか更に調査を進める予定である。この集団訴訟はSEIUが支援しており、この活動によりSEIUは看護師の更なる組織化を目指している。

資料出所

  • 委託調査員レポート、6月21日付ニューヨークタイムス

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