企業の社会的責任(CSR)促進と定着のためのプロジェクト
欧州委員会企業産業総局は中小零細企業におけるCSRの継続的な促進のために、16のプロジェクトに対して総額300万ユーロを資金提供することを発表した。
EUレベルでCSRに本格的に取り組むようになったのは2000年3月のリスボン欧州理事会(サミット)からである。2006年3月にはヨーロッパをCSRの最高峰にすることを目標とする同盟も設立されている(参照1)。この同盟はヨーロッパの企業がCSRを促進していくための開かれた同盟であり、欧州委員会はこの同盟を支援していくというコミュニケーションを発表している(2000年以降の欧州でのCSR関する議論や政策決定の経緯は濱口(2004)及び濱口(2005)に詳しい)。
欧州がCSRの先進地域である一方で、欧州の経験が語る限界についても指摘されている。機械振興協会経済研究所編(2006)によれば、欧州においてCSRの浸透の限界として、中小企業がCSRに取り組むことの難しさを挙げている。欧州においてCSRは政府によって考案された政策概念であり、その政策決定や実効性に対してNGOが深く関与している。多くの有力NGOに対して政府が資金提供し、CSRが前進していった側面がある。政府がCSRへの取組みを直接働きかけるのも、NGOから圧力を受けるのも大企業である。こうした経緯や背景から、欧州におけるCSRは、中小企業での実施が課題となっていると言える。
欧州委員会企業産業総局から発表されたプロジェクトは、欧州委員会の企業と起業家のための多年度プログラムの予算によるものであり、CSRに関するマルティ・ステーク・ホルダー・フォーラム(参照2)の提言と報告に基づいている。このフォーラムでは中小企業ラウンドテーブルを設けて、中小零細企業への取組みについて話し合われた(参照3及び4)。
このような経緯からプロジェクトは「中小零細企業におけるCSRの本流」と名づけられ、中小零細企業におけるCSRの定着や促進に取り組む組織や個人を支援することを目的としている。プロジェクトの支援対象として、スモール・ビジネス・アドバイザーや中小零細企業を代表する組織、商工会議所、中小企業と取引関係にある大企業だけではなく、公的機関、労働組合やNGOなどが想定されている(参照5)。
プロジェクトの実施内容や趣旨としては、調査研究から教材作成、セミナー等開催による意識向上といったものが示された。以下のような7つの主要となるトピックが挙げられている。
- CSR、中小零細企業と地域の競争力
- 中小零細企業向けのCSRビジネス・ケース
- 経営支援に取り組む組織のための能力構築
- 意識向上
- 教材、マネジメント・システム
- サプライチェーンに関する助言や資格認定
- 異なった国や地域間でのCSRの考え方の明確化
以上のような実施要領に基づき、120の組織から応募があった。そのうち16の提案が選ばれ、総額で300万ユーロの資金提供を実施することになる。資金提供はプロジェクト総額予算の約75%である。個々のプロジェクトに関しては下記の表を参照。これらのプロジェクトは、上記の7つの主要トピックにそって、さまざまなアプローチで中小企業におけるCSR構築の促進と支援を行う(参照6)。
例えば、個々のプロジェクト内容を見ると以下のような活動が行われる。CSRのベストプラクティスに関する調査研究、意識の向上のためのモジュールづくり、中小企業向け自己診断ツールの作成、ビジネスサポートスタッフ養成のためのセミナー開催、双方向のビジネスゲームを10カ国語で作成、買い手と売り手のパートナーシップ促進、企業訪問や会議開催等による中小企業のためのベスト・プラクティス研究。
実施団体 | 対象とする 国 ・地域 |
資金提供額 | 実施期間 | プロジェクトの 主な内容 |
|
---|---|---|---|---|---|
マリボル商工会議所 | スロベニア | 200379 | 2006年5月~2007年10月 | 18カ月 | トレーニング、教材づくり |
オーストリア中小企業研究所 | オーストリア、フィンランド、ドイツ、ノルウェー、ポーランド、ルーマニア、スペイン | 188137 | 2006年5月~2008年4月 | 24カ月 | 調査研究 |
ユーロインフォセンター | デンマーク、ハンガリー、アイルランド、リトアニア、ポーランド、イギリス | 95580 | 2006年5月~2007年10月 | 18カ月 | 調査研究・トレーニング |
ラトビア商工会議所 | ラトビア、エストニア、リトアニア | 299758 | 2006年5月~2007年7月 | 15カ月 | 調査研究・意識啓発 |
ユーロ商工会 | 全EU加盟国、ブルガリア、ルーマニア、トルコ | 202471 | 2006年5月~2007年4月 | 12カ月 | トレーニング |
Scuola Superiore Sant' Anna | イタリア | 141677 | 2006年5月~2008年4月 | 24カ月 | セミナー開催 |
IBA開発サービス | イギリス、アイルランド | 109305 | 2006年5月~2007年7月 | 15カ月 | トレーニング |
コペンハーゲンセンター | 少なくともEU加盟2ヵ国(選定中) | 105131 | 2006年5月~2007年11月 | 18カ月 | アクションリサーチ |
GILDE | ドイツ、フランス、ポーランド | 288222 | 2006年5月~2008年4月 | 24カ月 | 調査・アドバイス |
サステイナビリティ・ノース・ウェスト | イギリス、キプロス | 212959 | 2006年6月~2008年5月 | 24カ月 | セミナー開催・トレーニング |
都市と開発イニシアティブ | フランス、ブルガリア、イタリア | 155747 | 2006年5月~2008年4月 | 24カ月 | 診断ツール作成、意識向上 |
ジローナ大学 | スペイン、イタリア、イギリス | 198578 | 2006年5月~2007年7月 | 15カ月 | 教材づくり |
UPJドイツイニシアティブ | ドイツ | 212377 | 2006年5月~2008年4月 | 24カ月 | 診断ツール作成、意識向上 |
ギリシャCRSネットワーク | ギリシャ | 205629 | 2006年5月~2008年4月 | 24カ月 | 研究、教材づくり、ワークショップ開催 |
アイルランド輸出機構 | アイルランド | 203027 | 2006年6月~2008年5月 | 24カ月 | 研究、企業訪問、会議開催 |
UEAPME | ブルガリア、チェコ、フランス、ドイツ、ハンガリー、イタリア、リトアニア、ポルトガル、ルーマニア、イギリス | 未詳 | 確定作業中 | 10カ国語のハンドブック作成 |
※単位:ユーロ
※欧州委員会企業産業総局のホームページ(参照6)より作成
参照
- 欧州委員会企業産業総局のウェブサイト
- CSRに関するEUマルティ・ステーク・ホルダー・フォーラムのウェブサイト
- CSRに関するEUマルティ・ステーク・ホルダー・フォーラムのウェブサイト
- 欧州委員会企業産業総局のウェブサイト
- 欧州委員会企業産業総局のウェブサイト
- 欧州委員会企業産業総局のウェブサイト
参考
- 機械振興協会経済研究所編(2006)『欧州地域の「企業の社会的責任(CSR)」動向調査:わが国モノづくり企業への取り組み示唆』(機械工業経済研究報告書)機械振興協会経済研究所
- 濱口桂一郎(2004)「EUにおける企業の社会的責任(CSR)」『労働の科学』11月号
- 濱口桂一郎(2005) 「EUにおける企業の社会的責任(CSR)とコーポレートガバナンス」経営民主ネットワーク東京シンポジウム2004、(第28号)(2005年4月)
参考レート
- 1ユーロ=146.32円(※みずほ銀行ウェブサイト2006年7月4日現在)
関連情報
- 海外労働情報 > 国別労働トピック:掲載年月からさがす > 2006年 > 7月
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