労使のパートナーシップによる新たな組織化モデル

カテゴリー:労使関係

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  • 国別労働トピック:2006年7月

携帯電話加入者数で全米第1位のシンギュラー・ワイヤレス社は、2006年の第1四半期、過去最高益を記録した。労働組合の組織化を阻止しようとする企業が多いなか、同社は組合活動や組織化に協力的で、全米通信労働組合(CWA、組合員数約70万人)が交渉代表権(注1)の獲得に成功している。同社では、経営側が組合活動を容認し、組合も同社の営業活動に協力するというギブアンドテイクのパートナーシップ関係が構築されており、労使双方にメリットを生む結果となっている。

シンギュラー社における組織化

通常アメリカで組合を結成するためには、組合はある一定の交渉単位の従業員からの支持を30%以上集め、次に全国労働関係局(NLRB)(注2)の管理の下で行われる選挙で、単位内の全従業員の過半数の支持を得るという2段階の手続きが必要である。選挙では労使がともにキャンペーンを張るが、会社側の意向が従業員に及ぼす影響は強く、30%あれば通過できる第1段階で例え過半数の支持が集まっていたとしても、選挙では組合が負けてしまうことも多いとされる。

シンギュラー社の場合は、CWAとの合意で、(1)組織化キャンペーンに関して会社側は中立を保つこと、(2)組合がカードチェック方式(注3)により組織化を進め、カードが過半数集まれば第三者機関の認証を経て、組合の代表権を認めることーーを定めており、NLRB管理下の選挙を経ずに組合を設立することができる。シンギュラー社が2004年に反組合的経営で知られるAT&T社を買収した後、CWAは、2005年から旧AT&Tの従業員に対する組織化キャンペーンを積極的に展開し、現在までにシンギュラー社従業員の約90%に当たる3万8500人を代表するに至った。

ギブアンドテイクのパートナーシップ

シンギュラー社では、反組合的な他社の経験を踏まえ、組織化が円滑に進む方が、従業員の事業運営への集中力が高まると考えている。同社の幹部によると、AT&T社の管理職は事業戦略の一環として反組合戦術の訓練を受けていたが、シンギュラー社では、組合への加入を望むかどうかは従業員自身が決めることだとし、管理職への教育にもその方針が反映されている。一方、CWAは企業内での組織化しやすい環境を確保する代わりに、ホームページ上で市民にシンギュラー社の携帯への切り替えを呼びかけるなど、同社の事業への理解と営業活動に対する協力を積極的に行っている。

若年労働者や南部地域は、一般的に組合活動への関心が薄いとされている。しかしシンギュラー社では、従業員の70%が40歳未満と若年労働者が多く、南部に多数の拠点を持つにも関わらず組織化が成功している。またハイテク産業やホワイトカラーは組合を必要としないとの指摘が一般的であるが、シンギュラー社では、こうした属性の従業員にも組合を支持する傾向が現れている。

労働組合の結成を支援する団体、アメリカン・ライツ・アット・ワークの役員は、シンギュラー社の労使パートナーシップについて、選挙キャンペーン中の不毛な争いの回避や、労使双方へのメリットを強調し、これがアメリカにおける新たな組織化モデルとなるとの見方を示している。

参考

  • 5月22日付デイリー・レーバー・レポート、CWAホームページ

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