最低賃金制度の導入をめぐる議論

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  • 国別労働トピック:2006年6月

ドイツでは、最低賃金制度の導入をめぐる議論が活発に行われている。ミュンテフェリング副首相兼労働社会相は2月、今年後半に最低賃金法を議会に提出する用意があると宣言した。メルケル首相も最低賃金を求める要求に理解を示し、議論に拍車がかかった。ドイツ労働総同盟(DGB)と社会民主党(SPD)は、時給7.5ユーロの最低賃金を主張している。しかし、ミュンテフェリング氏は4月に入って、最低賃金の導入がサービス産業における雇用喪失に繋がる可能性があるとの懸念を示した。メルケル首相も5月末のDGBの大会において、一律7.5ユーロの広域最低賃金を拒否する旨を表明した。

最低賃金の必要性

欧州連合(EU)加盟25カ国では、既に19カ国において最低賃金が導入されている。

ドイツは、例外を除いて、法定最低賃金制度を持たない。団体協約が適用される企業は、一般的に、労使が交渉によって最低賃金に合意する。労使が合意した場合、労働社会省が一般拘束宣言を発することにより、労働協約が当該産業のすべての労働者に適用される。法定最低賃金は、建設産業のいくつかの部門(主要な建設業、塗装、屋根ふき、解体)においてのみ存在する。

労働組合や社会民主党は、多くの人々がフルタイムの仕事を持ちながら、貧困ライン以下の生活を強いられている現状から、政府が低賃金労働者を保護するための対策を講じる必要性を主張する。最低賃金は、闇労働の抑止、社会保障制度の空洞化の防止に寄与するとしている。

また、欧州議会が2月に採択した、EU域内市場におけるサービス提供の自由化を目的とした「サービス指令案」により、中東欧の安価なサービス労働者が流入し、労働条件の低下を引き起こす事態が懸念された。ドイツ政府は、外国人サービス労働者による賃金ダンピングから国内労働市場を守るため、然るべき対策を講じる旨を表明した。欧州委員会のフェアホイゲン副委員長(企業・産業担当)も、「最低賃金が導入されれば、サービス指令がドイツの賃金にとって、圧力となる懸念もなくなるだろう」と述べた。

低賃金労働市場の状況

ドイツ経済研究所(DIW)の調査によると、時給が平均の3分の2(西部ドイツは9.43ユーロ、東部ドイツは7.43ユーロ)に満たない低賃金産業の就業者の割合が、1994年の15.5%から2004年には20.6%まで増加した。DIWによれば、低賃金産業の拡大は、パートタイム雇用とミニ/ミディー・ジョブ(注1)の増加に起因する。しかし、常用雇用に占める低所得者の割合もかなり大きく、低賃金労働者の50.6%がフルタイムで働いているという。専門職の中にも低賃金の職にしか就けない労働者がおり、東部ドイツでは、専門職の約3割が低賃金産業に属している(例えば、職長の1割が時給7.43ユーロ以下となっている)。時給がとくに低いのは、従業員5人未満の小規模事業所の労働者である。DIWは、最低賃金が時給7.5ユーロになった場合、西部ドイツでは10人に1人、東部ドイツでは5人に1人に対して、賃上げが必要となり、小規模企業の競争力低下が危惧されると指摘している。

最低賃金に関するさまざまな主張

EU諸国の最低賃金は、ルクセンブルグの月額1500ユーロからラトヴィアの月額116ユーロまで大きな幅がある。1999年に最低賃金制度を導入したイギリスでは、22歳以上に対して、時給5.05ポンド(約7.5ユーロ)が適用されている。

DGB傘下のいくつかの産業別労働組合は、すべての使用者に適用される時給7.5ユーロの法定最低賃金を要求している。キリスト教民主・社会同盟の専門家は、時給6ユーロを主張する。これは1カ月当たり1300ユーロ(税引前)の賃金水準となる。ドイツの2004年の平均賃金は2640ユーロであった。

ドイツ使用者団体連盟のフント会長は、現在、月収1500ユーロ以下が340万人、1300ユーロ以下が260万人、1000ユーロ以下が130万人おり、最低賃金の導入によって、これら何百万人が職を失う危険にさらされる恐れがあると指摘する。

ミュンテフェリング副首相兼労働社会相は4月、ドイツにおける法定最低賃金の導入は、産業間の大幅な賃金格差により、サービス産業の数多くの職を奪う可能性があると述べた。このため、産業別最低賃金を設定するのが望ましいとの考えを表明した。

5月末に開催されたDGBの定期大会において、ゾンマー会長は、改めて一律時給7.5ユーロの最低賃金を要求した。しかし、メルケル首相は、一律7.5ユーロの広域最低賃金の導入を拒否する考えを明らかにした。ミュンテフェリング副首相は、最低賃金よりも派遣法の適用を受ける産業の拡大が望ましいと述べ、最低賃金に関する尚早な決定を戒めた。

連立政権は、コンビ賃金(注2)などの低賃金労働市場に関する政策と併せ、秋までに最低賃金について結論を出すこととしている。

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