農民工が抱える問題
―「中国農民工調査報告」より

カテゴリー:労働条件・就業環境統計

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  • 国別労働トピック:2006年5月

中国の内閣にあたる国務院は、今年1月、温家宝首相が主催する常務会議で農民工問題解決のための政府活動のガイドラインとなる「農民工の問題についての国務院の若干の意見」を提出し、農村出身の労働者に対する政府の考え方、活動原則、政策措置を明確に打ち出している。

さらに3月、国務院は「中国農民工調査研究報告書」を発表し、農民工の労働と生活の実態をさまざまな側面から体系的に捉えなおし、明らかにしている。

この調査は、「世界の工場」といわれる中国の第2次産業を支えてきた基調な労働力である農民工が抱える諸矛盾を解決し、将来に渡り労働力として再生産していくことが経済発展の重要なファクターであるという国務院幹部の強い問題意識のもとで2005年初めに開始されたものである。今回は、北京、上海、山東、湖南、江蘇、折江、四川、河南、寧夏回族自治区等の11省、市、区の農民工を対象に、10カ月以上の歳月をかけ、詳細に調査研究が行われている。

農民工の就業

出稼ぎ農民工の数は、約1.2億人であり、地元にとどまっている農民工を含めると農民工の総人数は2億人を超え、全人口の1割以上を占めている。第3次産業従事者の52%、第二次産業従事者の58%が農民工である。また、第2次産業では、組立加工業従事者の68%、建築業では80%が農民工である。このように、農民工は「世界の工場」を支える労働力であり、進む都市化の中でインフラ建設を支える重要な人的資源として、工業化の進展のために不可欠な存在となっている。

農民工の実像

農民工とは、農民の身分でありながら都市の下層労働市場で働く労働者である。(注1)

彼らの教育レベルは、66%が小学校卒業程度とそれほど高くない。年齢層別では、16歳から30歳が61%、31歳から40歳が23%、41歳以上は16%である。全体の平均年齢は、28.6歳と若い。性別では、男性が66.3%、女性が33.7%である。

農民工が出稼ぎにより得た収入のうち総額千億元以上が農村部の実家に持ち帰られる。政府統計によると、2004年の全国農民1人当たり純収入は2936元で、このうち給与収入は998元である。1997年から2004年までの間で農民の収入のなかで給与収入が占める割合は25%から34%に伸びている。

では、農民工の毎月収入はどうか。調査結果によると、全体の39.26%が500元から800元に集中しており最も多い。次いで300元から500元が29.26%、800元以上が27.90%であった。300元以下も3.58%存在する。

農民工の多くは、未技能労働者で、現在は肉体労働に従事し、その多くは若いからできる仕事に就いている。このため十数年後、彼らが高齢者となった時に生活基盤がどうなるかについて、政府、社会、家庭の各側面で大きな問題となることが心配される。

農民工が抱える問題

農民工の多くは、職業訓練を受けていない。今回の調査結果では、短期の職業訓練をうけたことのあるものが20%、初級職業訓練や教育を受けたことのあるものが3.4%、中等職業技能教育をいけたことのあるものは僅か0.13%であり、まったく訓練をうけたことのないものは76.4%を超えていた。農民工の技能水準は高くない。将来の労働力構成を考えると競争力維持に問題を残すものとして分析される。

農民工の就職は、伝統的に血縁や地縁関係による紹介が主流である。今回の調査結果でも60.3%は、知人や親戚の紹介によるものであった。そのため就職時に労働契約を締結していないケースも多く、30.62%は締結していない。労働契約とは何かを知らない農民工も15.68%存在している。

そういった中、今回の調査結果では、低賃金で長時間労働を強いられる農民工の姿が浮き彫りとなった。毎日労働時間が8時間以内のものはわずか13.7%。8時間から9時間が40.30%、9時間から10時間が23.48%であり、10時間以上の働く農民工は、22.5%も存在している。

社会保障の格差も問題として指摘されている。農民工の労災保険の加入率は僅か13%、医療保険は10%という低率である。労働災害のため身体障害者となってしまった労働者も年間70万人発生している。

低賃金、長時間労働をはじめとするなど劣悪な労働条件のほか、社会保障格差、職業訓練機会格差、戸籍制度による制約など都市と農村の格差構造が依然存在する中で、農民工の権益保護が取り上げられて久しい。そういった中、今年から始まる「第11次5カ年計画」の推進の中で、今回の国務院による「農民工に関する若干の意見」や「農民工調査報告書」に基づき、政府各部による取り組みが早急に実施されることへの期待は高い。

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