教育改革法案が通過
―公立校に官設民営のノウハウを導入 教育格差の是正をめざす

カテゴリー:人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2006年4月

2006年3月15日、教育改革関連法案が最大野党保守党の賛成を得て可決された。ブレア労働党政権は1998年の発足以降、教育改革を最重点政策課題としてきた。今回の改革法案は2005年10月に教育技能省が発行した教育白書『学力水準の向上とよりよい学校を全ての人に(Higher Standards Better School for All)』(注1)の方針を基本的に踏襲したもの。特に国際競争力の基礎となる義務教育の再編に主眼を置いており、官設民営方式で運営される「委託学校(トラスト・スクール)」の創設などが盛り込まれている。

英国における義務教育は5歳から16歳までの11年間。うち5~11歳が初等教育と11~16歳の中等教育に区分されている。英国は義務教育後の進学率が他の先進国と比較して低い。「英国の技能(Skills in the UK: The long-term challenge)」(注2)によれば、英国成人の約3分の1が卒業のための資格(注3)を持たず、6人に1人は初等教育で習得すべき読み書きの能力に欠けるなど、義務教育における基礎学力の低下の問題が指摘されている。基礎学力を身に付けることができない若者は定職に就けず、失業を繰り返す傾向がある。このため、義務教育期間にいかに基礎的な学力や技能を修得させるかが大きな政策課題となっている。

義務教育を行なう公立学校はわが国同様、地方自治体によって運営され、全国統一の学習指導要領(ナショナル・カリキュラム)に基づく教育を行なっている。(注4)学習到達目標への達成状況を測るために「全国テスト」が実施され、テストの結果は学校ごとに毎年公表される。

また、教育技能省から独立し国会に対して直接責任を負う「教育水準監査院(OFSTED)」がすべての学校を定期的に監査し、結果を公表している。この監査は各校を格付けすることが目的ではなく、学校教育の現実を把握し、現実にあった学校経営計画を立てるための、改善につながる評価機能の開発であると位置づけられているものの、地域間、学校間の格差という問題を浮き彫りにしている。

今回、政府が改革案に盛り込んだ委託学校(トラスト・スクール)は、公立校における教育の質が低迷している状況の改善をねらったもので、費用は公費でまかなうが、運営は民間に委ねるという「官設民営」方式で運営される。カリキュラムの設定も私立校同様一定の裁量が与えられる予定となっている。

技能労働者不足解消への期待も

英国経済は堅調に推移しているが、国際競争力の指標である生産性は、他の競合国に大きく後れを取っている。英国政府統計局(ONS)による生産性の国際比較(2004年)によれば就労者1人当たりのGDPは英国を100とした場合、米国と比べて約25%、フランスとの比較では11%劣る。

また使用者が要求する技能のレベルが年々上がっているにもかかわらず、それに見合った人材が育成できていないことも将来的な経済成長の阻害要因になっている。英国産業連盟(CBI)の調査によれば、2012年までに全雇用の75%が大学入学資格試験であるGCSE-Aのレベル3程度の技能を必要になると予想しているのに対し、現在、義務教育の最終学年に受ける中等教育総合資格試験GCSEレベル相当の技能を有する若者は全体51%に過ぎず、圧倒的な技能不足の状況にある。

これらの問題の原因は若者の多くが義務教育の修了する16歳程度で教育や訓練の場から離脱することにあると見られており、政府は今回の義務教育制度の改革は、将来的な技能労働者の養成にもつながると期待している。

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