加速する「時長(時短の見直し)」

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  • 国別労働トピック:2006年2月

法定労働時間を週35時間制に据え置くことを前提としつつも収入増を望む労働者の時間延長を可能とする「時短緩和法」が成立したフランス。2005年3月22日の同法成立以降、競争力強化を理由に、週35時間から実質週40時間労働への「時長」の流れが加速している。最近の主な動きをまとめてみる。

ボッシュ社(自動車部品メーカー)

ボッシュ社の経営陣は、2005年12月15日、週35時間労働制を見直し、賃金据え置きのまま週40時間労働制へ移行する方針を明らかにした。対象となるのは、同社がフランスで雇用する10400人の全従業員。

経営側の提案は、2004年夏の協定(注1)と同じ考えに基づくもの。この協定は、ヴェニシュー工場(フランス南東部リヨン郊外)のチェコ移転の代替策として週35時間労働制を36時間労働制へ移行させたことで知られている。これを皮切りに同社は、同様の協定をフランス全土に拡大し、国内全21工場(ヴェニシュー工場も含む)の10400人に対象を広げることを目指している。

同社のギー・モギス社長は、「生産コストの減少は、技術革新や製造工程での改善だけでは不十分。賃金を引き下げないのならば、賃金を据え置いたままで労働時間を引き上げることが唯一の方法である。顧客が年率で3%程度の価格引下げを要求している中で、他に方法はない」と主張し、週40時間制への回帰を表明している。

これに対し労組側は、「雇用を人質にした脅し」と即座に反対を表明。CGT(フランス労働総同盟)は「この提案は、35時間分の賃金で40時間働くことだ」とし、「フランスは、インドや中国の賃金と比較した場合、どのようなことをしても競争力を持つことはあり得ない。生産コストを下げる際に、雇用や賃金のみに押し付けるべきではない」と非難した。2004年のヴェニシュー工場での「時長」協定に署名した組合も含めて労組側は、この「時長」提案に強く反対。今後、労使交渉が行われることになる。

フェンウィック社(機械メーカー)

フェンウィック社のセノン・シュール・ヴィエンヌ工場(フランス中西部ヴィエンヌ県)では、2005年12月21日、賃金を据え置いたまま労働時間を延長するということで労使が合意した。これにより、週当たりの労働時間が2.5~3時間程度延長され、年間では136時間の増加となる。2006年3~4月にかけて実施される予定。一方、賃金については、今後2年間は据え置きとなる。

この「時長」の計画については、2005年夏に行われた組合内での投票では、多くの従業員が「見返りなしに労働時間を増加させる計画である」として反対を唱えていた。しかしその後、経営側が各従業員に対し「同計画に反対した場合は解雇する」と通知。この結果、解雇を免れるため、従業員の大半はこの計画に賛成せざるを得なかったという経緯がある。これに対しCGTの工場代表は、「我々は、この協定に署名せざるを得なかった。合意が成立しない場合は、2006年末か2007年初めに従業員の解雇が現実のものとなり、中長期的には工場の閉鎖も考えられる」と説明した。

このような労使協定が成立した背景には、「ポーランドへの工場移転阻止」という労働者側の意向がある。今回の協定では、(1)1000万ユーロ(約14億円)を投じて、遅くとも2006年12月末までに自動塗装装置を導入する、(2)2007年3月までに新たな生産ラインを作る、(3)東欧に新たな工場は作らない、(4)同工場の従業員の雇用に関しては2012年まで保証する――等も盛り込まれた。

フェンウイック社は、1999年3月という国内でも比較的早期から時短を導入し、政府の支援も得ていた。しかし、経営陣は、「競争力を維持するためには、『時長』が必要である」と主張し、今回の賃金を据え置いたままでの労働時間の延長に踏み切った。

ヒューレット・パッカード社(アメリカ系IT企業)

ヨーロッパ内の従業員6000人のうち、フランス国内の1240人(全従業員の4分の1に相当)を削減する方針を発表(2005年9月12日)してから、労使の交渉が続いていたhp社。

2005年12月2日、35時間労働制を見直す代わりにフランスでの従業員削減数を圧縮する方向で、労使合意が成立した。

同社のフランス法人と労働組合は、従業員の削減数を300人減少させるかわりに、労働時間短縮に関する労使協定を見直す労使交渉を開始することで合意。「時長」については、2006年3月から10月にかけて段階的に実行する予定。また、管理職の休日については、最高12日分減らされる。これにより増加した労働日数分の報酬は支給される。その際の追加賃金計算方法などについては今後の交渉で詰めていく。交渉は、2006年3月末まで続けられる予定。

同社の労働組合のうち、フランス幹部職総同盟(CFE-CGC)とフランスキリスト教労働同盟(CFTC)、フランス労働総同盟・労働者の力(CGT-FO)、フランス民主労働同盟(CFDT)は、この「時長」をめぐる労使協議の開始に同意したが、CGTは拒否。今後の交渉の行方が注目される。

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