大企業に医療費負担を求める「ウォルマート法案」、メリーランド州で可決
2006年1月12日、メリーランド州議会は、大企業に対し一定の医療費負担(注1)を義務付ける法案を全米で初めて可決した。新法は、州内に1万人以上の従業員を雇用する企業に対し、賃金総額の8%以上の医療費負担を義務付けるものだ。同州内に1万人以上を雇用する大企業4社のうち、医療費を8%未満しか負担していないのはウォルマートのみ。この法案は議会で「ウォルマート法案」と呼ばれ、実質上、同社の医療費負担の拡大をねらったものとされる。
ウォルマートの医療費負担
2003年にAFL-CIO(米労働総同盟・産別会議)が独自に行った調査によると、ウォルマートの従業員のうち、会社が医療保険を提供するのは半数以下であった。また同調査によると、データの入手が可能だった13州のうち12州において、同社の従業員は他社に比べ、公的医療保険に依存する傾向にあることが明らかになった。
ウォルマートは1月13日にコメントを発表し、メリーランド州には医療保険の未加入者が78万人いるが、そのうちウォルマート従業員の占める割合は0.5%未満に過ぎないと主張。従業員の医療保険を適正に負担しているとして、メリーランド州議会や、法案の可決を後押しした労働組合の動きを批判した。
ちなみに、メリーランド州知事は反組合の共和党に所属し、2005年5月には同法案に対し拒否権を発動した。しかし上下院とも組合と協力関係にある民主党が多数を占めるメリーランド州議会は、拒否権を覆して法案を可決した。法案が可決に至った背景には、AFL-CIOメリーランド州支部による強力な働きかけがあった。
医療費高騰と企業・組合の取り組み
1月19日付日経新聞によると、アメリカでは企業が負担する医療費が高騰しているため、会社側は医療費負担を従業員に転嫁する傾向があるとされる(注2)。組合はこれに対する反発を強めており、AFL-CIOは全米の30以上の州で「医療費の公平負担」運動を展開中である。
AFL-CIOのメリーランド州支部を例に取ると、ウォルマート法案の可決に賛同しない議員については、支持の取下げを明言するなど、支部をあげて同法案成立に向けた活動を推進していた。AFL-CIOはメリーランド州を成功例として運動を全国的に展開し、他の州でも同様の法案を成立させたい考えだ。
注
- アメリカでは医療費は例外(高齢者及び障害者に対するメディケア及び低所得者に対する公的扶助であるメディケイド)を除き、公的にはカバーされない。よって従業員は、企業が福利厚生の一環として医療保険を提供していればそれに加入することが出来るが、それに加入できなければ、個人で保険に加入するしかない。ちなみに大企業では、事業主が一定の医療費を負担して従業員に医療保険を提供することが多い。
- 大手自動車メーカー、GMとフォードは年間の医療費負担がそれぞれ56億ドル、35億ドルで、両社とも昨年、全米自動車労組(UAW)から医療費負担軽減について合意を取り付けている。
参考
- 1月15,16, 19日付日経新聞、1月16日付ウォールストリートジャーナル、ウォルマート社ホームページ
2006年2月 アメリカの記事一覧
- 大企業に医療費負担を求める「ウォルマート法案」、メリーランド州で可決
- UFWのAFL-CIO正式脱退と組織率の動向
- 政府の年金改革の行方
- ニューヨークストのその後
関連情報
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