最近のオランダの社会・雇用政策

オランダでは11月22日、下院総選挙(定数150議席)が行われ、バルケネンデ首相率いる中道右派のキリスト教民主勢力(CDA)が改選前の44から41に議席を減らしたが、第1党の座を維持した。野党で中道左派の労働党は、改選前の42から32へと大幅に議席を減らしたが、第2党となった。今後CDAを軸とした連立協議が行われることとなる。

総選挙を前に社会・雇用省が発表したここ数年間の社会・雇用政策の実施状況と評価について紹介する。

経済

オランダ経済は、過去数年間の停滞の後、再び国際的に最も好調な経済状況を迎えている。02~05年のオランダ経済は、ユーロ圏の平均1.3%成長に対して、平均1%成長と依然遅れをとっていた。しかし、06年と07年の経済は、ユーロ圏の1.9%を上回る年率3.1%の成長が予測される。

就業者数の伸びもユーロ圏の1%に対して1.9%と高い上昇を記録している。ここ10年間で初めて、社会保障に依存する人々の数が全般的に減少し、この傾向が07年も持続すると予想されている。来年は、01年以来の財政黒字(0.2%)となり、ほとんどの人々の可処分所得が増加する見込みである。

社会・雇用政策に関する諸改革

オランダ政府は過去数年間、社会問題および労働市場に関する重要な改革を実施してきた。その結果03~07年の予算節約額は合計約100億ユーロに上り、将来的には、構造的にGDPの2%に相当する120億ユーロを節約できる見込みである。

オランダの賃金は、95~04年の間、ユーロ圏諸国の年平均賃金上昇率が2.2%であったのに対し、年平均4%上昇した。しかし、労使は04年、オランダの競争力を高めるために、賃金抑制が必要であるとの共通認識に到り、それ以来、賃金の伸びはユーロ圏の平均よりも低くなっている。諸改革や賃金抑制を実行した結果、オランダは現在、好調な世界経済の恩恵を享受している。

1. 就労不能

04年以降、使用者は、従来の1年に替わって2年間傷病手当を支払うよう義務づけられた。それに伴い、使用者は、疾病を患う労働者ができるだけ早く職場に復帰し、不必要に就労不能と判定されないよう、より深く関与することとなった。

今年施行された新しい「就労能力に応じた雇用と所得に関する法律」(WIA)もまた、労働者ができないことよりも何ができるかに焦点を当て、手当の支給よりも仕事への復帰を優先している。真に就労不能な人々に対しては、旧障害保険法(WAO)の70%の水準を上回る、従前賃金の75%の永続的な手当が支給される。これらの人々も、認定後5年間は毎年再審査を受け、回復の見込みがないかチェックされる。

障害手当(部分的就労不能を含む)を受給する人の数は来年、03年より15万7000人(16%)少ない、約82万3000人になると予想されている(表1)。

2.失業

失業保険法は、過去数年間で段階的に改正されてきた。06年10月1日に施行された新しい法律は、失業手当の受給期間を5年から3年に短縮し、就労を促進することに主眼を置いている。この最長受給期間は、38年の勤続によって与えられる。失業後2カ月間の失業手当は、これまでの従前賃金の70%から75%の水準に引き上げられた。3カ月目以降の手当は従前賃金の70%の水準に戻る。以前の早期退職慣行に代わって、57.5歳以上の高齢者層に対しても失業手当を受給するためには求職する義務が課せられた。

過去数年の経済不況期間においてもオランダの失業率は比較的低い水準に留まっていた。さらに今年は失業率が顕著に低下し、ユーロ圏ではデンマーク(3.8%)に次ぐ3.9%の低さとなった(ユーロ圏平均は8.2%)(表2)。

3.生活保護

04年に施行された新しい「雇用・生活保護法」は、人々がより早く仕事に復帰できるよう地方自治体を財政的に支援し、社会保障財政の改善を図ることを目的としている。規制の撤廃、財政的裁量の拡大により、自治体が個別案件に即した解決策が取れるよう配慮がなされた。

自治体の厳格なチェックにより、生活保護の新規受給者数が減少している。自治体はまた、手当に依存する人々が仕事を見つけられるよう支援することに注力している。生活保護受給者数は来年、さらに4.4%(1万4000人)減少し、31万1000になると予想されている。

4.育児

新育児法(2005年)は、育児を利用可能かつ負担可能なものとすることを目指している。2007年には育児サービスの待機期間がなくなり、育児費用がこれまでより安くなる。政府と使用者が費用の大部分を支払う。2人の子供を持つ年収2万2000ユーロの家族は、1時間当たりわずか0.53ユーロを支払うだけでよい(全体の平均費用は1時間当たり5.45ユーロ)。年収4万5000ユーロの家族の負担は、1時間当たり1.14ユーロ、年収9万ユーロの家族の負担は1時間当たり2.84ユーロである(いずれも子供2人の場合)。

5.ライフ・コース・プラン

育児とは別に、多くの両親が自ら両親の面倒もみなければならない状況にある。特に多く女性は、仕事と家庭の両立可能性によって仕事に就くかどうかの判断を下している。今年導入されたライフ・コース・プラン(生涯休暇制度)は、労働者が税優遇措置を受けながら貯蓄する機会を提供し、様々な目的(例えば、長期ケア、教育、両親休暇など)で休暇を取得する際の費用を賄えるようにするものである。

新育児法とライフ・コース・プランの導入により、政府は女性が働くための障害を取り除こうとしている。国際基準に照らすと、多くのオランダ人女性が既に仕事を持っており、女性の就業率は急速に上昇している。欧州統計局(Eurostat)によれば、女性の就業率は、94年の53.2%から05年には66.4%まで上昇した。同じ期間の欧州連合(EU)旧加盟国平均の女性の就業率は、49.3%(94年)から57.4%(05年)に上昇した。比較においては、オランダ人女性就業者の多くがパートタイムで働いている点に注意する必要がある。

6.早期退職制度

労働者が満65歳以前に退職することを妨げるため、オランダ政府は06年から集団的早期退職制度に対する税優遇措置を廃止した。大量の早期退職は、人口の高齢化や潜在的な労働力不足の観点から、決して望ましいものではない。オランダは既に、55~64歳層の就業率に関して他のEU諸国の水準に追いついた。欧州統計局の94年の統計によると、オランダの高齢者の就業率は旧EU加盟国(EU15)平均を下回る29.1%であった。それが05年には46.1%となり、EU15平均の44.1%を上回った。将来もさらに上昇すると予想されている。

7.年金

諸外国とは対照的に、オランダ人の多くは老後に備え補足的老齢年金制度に加入している。労働者の90%が補足的年金に貯蓄している。現在これらの年金の資産総額は、GDPの113%に相当する約6000億ユーロにのぼる。07年に施行される新しい年金法は、労働者と年金受給者に対し、彼らの年金に関してより明確な情報を得る権利を与えている。年金基金は、インフレによる年金額の調整に関し、労働者や年金受給者により詳細な情報を提供しなければならない。法律はまた、年金支払いを保障するため、年金基金の自己資本や積立金の残高に関する最低基準について規定している。

8.労働時間

07年から労働時間の上限や夜間シフトに関する規制が緩和された。新しい労働時間法は、労働時間の上限を1日当たり12時間、1週あたり60時間とし、4週間の平均で週55時間以下、16週間の平均で48時間以下と定めている。夜間シフトは、最長10時間を超えてはならず、日常的に夜間シフトで働く労働者の労働時間は16週間の平均で週40時間を超えてはならない。新法はもはや、時間外労働に関する特別な規定を含んでおらず、休憩時間に関する合意は、労使間の取り決めによることとなった。

出所:オランダ社会・雇用省ホームページ

関連情報