陳水偏総統辞任を求める初の政治スト 

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  • 国別労働トピック:2006年11月

陳水扁総統は、家族、側近を含めた一連の汚職スキャンダルに見舞われているものの、大規模な座り込みと象徴的な包囲活動の後も、2008年5月20日までの残り任期を全うする意向を繰り返し表明してきている。

これに対して、与党民主進歩党(DPP)の施明徳前主席は、陳総統を辞任に追い込むための反汚職活動を開始しており、9月14日、スキャンダルまみれの総統を辞任させるための非暴力的手段としてストライキを行うことを確認した。

この歴史的に可能な政治的ストに直面して、蘇貞昌首相は、政治家や社会活動家に対して、法の支配を尊重し、目的追求のために他人の権利を侵害することのないよう要請した。
行政院労工委員会(CLA)は、現行の労働法では、労働ストライキは労使間紛争の場合に限られるとしている。これまで台湾では、いわゆる政治ストは発生していない。

陳瑞隆経済部長(経済相)は、大規模ストは、台湾経済の成長に「致命的打撃」を与えることから、そのような行動は、台湾市民の多くにとっては受け入れがたいと述べている。陳経済相は市民に対して、台湾が国内経済と対外貿易の活性化に取り組んでいる時期に、ストライキを行うことは考えないよう呼びかけた。

また、政府情報部の鄭文燦部長も、台湾史上政治的目的のためにストが実施されたことはないと言明し、政府はこれまで国民の希望に耳を傾けてきており、その要望に応えるために、できる限りのことをしていくつもりだと語っている。

さらに、全国中小企業協会の林秉彬議長も、総統排斥を目的としたストに対しては、どのような形のものあれ断固反対すると述べた。

台湾の経済学者やエコノミストたちも、ストが行われれば台湾経済へのダメージは避けられず、市民はそのようなストの発生を認めないだろうと発言している。国立中央大学台湾経済発展研究センターの朱雲鵬所長は、ストは経済に重大な影響を与えると警告しており、中央研究院の呉中書研究員は、ストの影響は、ハイテク産業で最も大きく、農業、金融、銀行部門では比較的小さいだろうと語っている。同研究員は、ストの発生による株式市場への影響を懸念しており、取り引き停止による損害は莫大で計り知れないと強調する。

与党DPPの議員は、ストの可能性に懸念を表明し、ストによって社会的混乱が広まり、台湾経済に影響が出るとしている。同党議員は、「2005年のGNPで計算した場合、8時間のストライキで台湾に発生するコストは、104億NTドル(約3億1,600万米ドル)となり、台湾は既に、外国投資、人口当たりの所得において、アジアン・ドラゴン四カ国(台湾、韓国、シンガポール、香港)の中で最下位となっている。従って、国民は、このような不適切な手法を決して容認しないであろう」と説明する。

野党国民党(KMT、台湾の主要政党の一つ)議員でさえ、台湾社会が被る損害は甚大だとして、総統排斥のために学生や中産階級の労働者がストのような過激な行動をとることを望まないと表明している。

他方、野党親民党議員は、陳総統が「百万人反汚職」運動に耳を傾けなかったとしても、ストを先導するつもりはないが、他の集団が起こしたスト活動は尊重するつもりだと述べた。政治家、官僚、エコノミストの多くが、大規模ストは国内経済に甚大な損害を与え、国民に不便をかけると警告しているが、反汚職運動の本部では、総統を辞任に追い込むための反陳運動の取り組みとして、大規模ストという選択肢も依然ありうるとしている。

政治的理由によるストは、1980年代後半に戒厳令が解除されるまでKMTが支配していた台湾では、極めて微妙な問題である。ストが実施された場合に参加を検討していると報じられた公益企業の一つ、中華電信の労働組合は、参加の決定はもとより、この問題について議論をおこなったことさえ否定している。

ちなみに、台湾立法院は、昨年(2005年)6月、総統リコールの動議を採決したが、憲法が定める議員の3分の2の賛成を確保できなかったためこの試みは失敗に終わっている。

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