中高年齢者の雇用促進プラン開始
―新たな期限付き雇用契約の導入とイメージアップキャンペーンで雇用促進を図る

カテゴリー:高齢者雇用

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  • 国別労働トピック:2006年11月

政府は、10月22日、中高年齢者の就労に関するイメージアップキャンペーンを開始した。「何歳になっても将来を計画できる!」がスローガン。新たに導入した中高年対象の期限付き雇用契約(CDD Senior)の普及とともに、「人々の見方を変える」目的で、政府は300万ユーロを投じ、企業へのパンフレットの送付、テレビやラジオ、インターネットでCMを流すなど全国規模でキャンペーンを展開する。

CDD Seniorの最大の目的は、中高年齢者の雇用への復帰を容易にし、年金を満額受給できる権利の追加を行うこと。対象は、57歳以上の失業者で3カ月以上求職活動を行っている者で、農業を除く全ての分野が含まれる。契約期間は最大18カ月間で、更新は1回に限り可能。トータルで36カ月を超えることはない。使用者は、(1)契約期間を明確に定めること、(2)契約期間終了時に、当該従業員への総支払額の1割を「契約終了手当」((注1))として支払うこと――が義務付けられる。なお、CDD Seniorでは、労働時間に関する特別の規定は設けられていない。

CDD Seniorの効果に大きな期待を寄せる政府は、その普及とともに、中高年齢者が働く・働きつづけることに対する「人々の見方を変える」ために大規模なキャンペーンを開始した。中高年齢者が登場する30秒ほどのCMを2種類作成し、10月22日から11月12日まで、テレビ、ラジオ、インターネット等で放映した。

CMに登場する人々は、「私はガンを克服した」「私はPCゲームでは誰にも負けない」「私は昨年、サックスを始めた」「私はエイズ対策のために10万ユーロを集めた」など、自らをアピールし、最後に「ところで、一体、誰が、老いぼれと一緒に働くのは嫌だと言っているんだい?」という一言が流れる。政府は、企業に対し「高年齢者を雇用するように」とただ求めるだけでなく、この問題をフランスの全ての人々に関係していることだと認識してもらうことが何よりも重要としている。2007年には、CMの第2弾が放映される予定だ。

このキャンペーンを指揮するボルロー雇用大臣は、「若年者雇用と中高年齢者雇用はフランスの弱点である。特に中高年齢者雇用に関する状況は悲観的と言わざるを得ない。スウェーデンなどが70%近い就業率であるのに対し、フランスではたったの37%である。この状況を打破するには、人々のものの見方を変えることが重要である。フィンランドが以前、大衆向けのキャンペーンを実施して50歳以上の就業率を5年間で34.9%から43.7%(2000年)にまで引き上げた例は、大変参考になる。こうしたキャンペーンは毎年実施することで成果が上がる」とし、キャンペーンの継続を示唆した。

フランスの中高年齢者の就業率の低下の背景には、1970年代半ば以降、失業率の増加に直面した政府が、若年層の雇用機会増大を目的として積極的に採用してきた中高年労働者の早期引退を促進する政策が存在する。EU諸国の多くがこの数年、かつての早期退職傾向から高齢者雇用促進へと転換するなか、フランスでは今なお、失業率の増加を嫌う歴代政権により、中高年労働者の早期引退を促進する政策が続けられていた。しかし、若年者の失業率は改善されないまま、「早期退職」は根強い文化として広がってしまった(注2)。

この根強い文化の打破に向けて、急激な方向転換を開始したフランス。CDD Seniorの効果に大きな期待を寄せているが、労働者の派遣を専門とする人材派遣機関Actif Senior Plusの会長は、「CDD Seniorによる大きな変化は期待できないと思う」とコメントしている。実際にある調査では、「CDD Seniorの利用を検討しますか?」という問いに対し、「検討する」と答えた企業は13%にすぎなかった。ちなみに、若者や労組の猛反発にあい廃案となったCPE(初回雇用契約)に関して同様の質問をした際には、31%の企業が「検討する」と答えていた。

今回のキャンペーンは、ド・ヴィルパン首相が6月6日に発表した「高年齢者雇用のための国家行動プラン 2006-2010」(注3)によるもの。同プランは、若年者に雇用機会を提供するために高年齢者を労働市場から退出させるというこれまでの政策を大きく転換し、高年齢者の雇用促進に力を注ぐことを表明したものとして注目されていた。

中高年齢失業者の雇用への復帰を重視する政府は、プラン発表時からCDD Seniorの実施に必要な法整備を早急に進めると宣言していたが、8月28日にCDD Seniorに関する政令を発布 。導入が正式に決定した。

EUは、2010年までに55~64歳の就業率を50%にすることを目標としている。フランス政府は、2006年から2010年にかけて、55~64歳の就業率を1年につき約2%ずつ高め、EU目標の実現を目指す。

参考

  1. 1ユーロ(EUR)=150.09円(※みずほ銀行ウェブサイトリンク先を新しいウィンドウでひらく2006年11月6日現在)

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