雇用における年齢差別是正に向けた取り組み
―雇用均等(年齢)規則の施行

カテゴリー:高齢者雇用労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2006年10月

2006年10月1日、EUの一般雇用均等指令(注1)の国内法である「雇用均等(年齢)規則(Employment Equality (Age) Regulations 2006)」が施行された。EUは加盟国に対して当該指令を2006年末までに国内法化することを義務付けており、フランスは2001年(注2)、オーストリアやベルギーは2003年と比較的早い時点で対応が完了している。これに対し英国では政労使の意見調整に時間を要したこともあり、期限直前での施行となった。

規則施行までの経過

英国の雇用における年齢差別に関するこれまでの立法面での取り組みを見てみると、使用者は制定法に違反しない限り採用年齢・退職年齢を自由に設定することができる他、1996 年雇用権法(Employment Rights Act、1996)は高齢労働者の権利を一部制限する(注3)など、保護の度合いは低いものであったといえる。

1999年に発表された「雇用における多様な年齢層に関する行動規範」は、採用から昇進、退職に至るまでの雇用の各段階における年齢差別の撤廃、平等な取り扱いに関する原則を定めたものの法的強制力はなく、差別の是正は使用者の自主的な取り組みにゆだねられていた。

政府調査でも、特に高齢労働者に対して均等な雇用機会が確保されていない状況が顕著にみられるなど年齢差別の存在が明らかにされた。こうした状況を受け、1998年に開始したニューディール政策では、若年失業者だけでなく高齢失業者もターゲットにしたプログラムが打ち出された。

その後、2000年11月のEU理事会における一般雇用均等指令採択を受け、英国政府は職場における年齢差別を禁止する法律制定に向け、施策の枠組を示した協議文書を発表するなどの準備を進めてきた。

規則の内容

今回施行された雇用均等(年齢)規則は(1)採用、昇進、訓練における年齢差別の禁止(2)定年制の禁止(3)不公正解雇や整理解雇の救済に関しての年齢を理由とする適用除外の撤廃(4)年齢を理由とした職場での嫌がらせ行為の禁止――などを定めている。これにより使用者が被用者の定年年齢を公的年金の受給開始年齢である65歳未満に設定することは、客観的に正当な理由があると認められない限り違法となる。また求人広告で「新卒者限定」「意欲ある若者求む」などの表現も使えなくなる。さらに同規則は使用者に対して一定の法的責任を課しているため、企業は社内規定の整備を求められることになった。

貿易産業省(DTI)が同規則の効果について行った事前の分析(注4)では、同規則の導入によって2016年までに労働力人口が最大5万人増加し、これに伴う税・社会保険料収入も大幅に増加するとしている。

年金制度と高齢者就業率の関連

英国の年金制度は二階建てで一階部分は国民保険(NIS)を財源とする公的年金「退職年金(基礎年金)」が構成し、すべての就業者に加入する義務がある。二階部分は「その他の年金」ともよばれ(1)国家第二年金(S2P)(2)職域年金(3)個人年金――がある。

1980年代以降、一定の要件を満たす職域年金、個人年金の加入者はS2Pに加入しなくてもよいという「公的年金の民営化」策が進んだ結果、職域年金への加入が増加し、現在の加入率は被用者全体の約4割にのぼっている(注5)。職域年金は40年程度の加入期間がある場合、最終給与の約3分の1~2程度が保障されることもあって早期退職を促す要因となっている。一般的に英国の使用者は「高齢者の雇用に消極的であるだけでなく、早期退職を推奨する傾向がある」(注6)と言われており、使用者の高齢者就業に対する意識はそれほど高いわけではない。それにも関わらず英国の高齢者の就業率(注7)(65.7%/2005年)がドイツ(53.6%)やフランス(43.8%)と比較して高いのは、退職年金(基礎年金)の給付額が低く(給付額は単身者で週82.05ポンド:約1万8000 円)生活のために就労せざるを得ない低所得高齢者の存在が挙げられる。規則の施行によって定年年齢を公的年金の受給開始年齢である65歳(注8)未満に設定することができなくなったことで、従来問題となっていた「所得の空白期間(年金支給まで給与収入も年金もない期間)」が制度上は解消されたことになるが、低所得層に対する所得保障は高齢者就業促進における課題のひとつとして残っている。

参考レート

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