多文化国家の課題
2005年12月、シドニー南部のクロヌラ・ビーチにおいて発生したレバノン系の若者らがライフガードを襲撃した事件を契機にこれに反発した白人のサーファーらによる暴動が発生。積極的に移民を受け入れ、それぞれの文化の共存を認める多文化主義を推進してきたオーストラリアに大きな衝撃を与えた。
オーストラリアでは第二次大戦以降、計画的な移民政策を展開、現在では人口1960万人の国民のほぼ4人に1人が外国生まれ、その内43%は片親または両親が外国生まれである。さらに15歳以上人口1574万人のうち、約9%にあたる136万人が移民で占められている(注1)。
オーストラリア政府は熟練労働者不足の解消には移民労働力が不可欠として、積極的な移民政策をとっており、とくにポイントテストを中心とする移民受け入れ制度を英国が参考にするなど、これまで高い評価を受けていた。
そのような中で発生した今回の暴動の原因のひとつには、エスニックコミュニティ間の感情的反発の存在があると考えられている。1960年代には英国やアイルランド生まれの移民が半数近くを占めていたのに対し、1990年代までにはこの2カ国の出身者はわずか13%に減るなど、人種構成が大きく変化した。
世論調査では、依然として約8割が多文化主義を支持しているほか、「移民が多過ぎる」との回答も33%に留まるなど国民は比較的冷静に事態を受け止めている。しかし「豪州に人種差別はない」というハワード首相の見解には75%が同意しないと回答しており(注2)、多文化主義が抱える社会的緊張は高まりつつあり、移民による経済的メリットをいかにコントロールするかが一層重要な課題となっている。
注
- ABS資料による
- NNA記事(2005年12月21日)
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