所得税改革に労組が反対

カテゴリー:労使関係労働条件・就業環境

メキシコの記事一覧

  • 国別労働トピック:2005年9月

フォックス政権は政権の課題の1つとして税制改革を掲げているが、所得税改革をめぐり野党各党および労組から広範な反対運動が起こっている。具体的に問題となっているのは、賃金労働者が受け取る各種手当(クリスマス手当、食料品引換券、奨学金、退職金、年金、交通費、傷病手当、時間外労働手当等)や、メキシコ憲法123条で定められている「労働者利益分配金」(税引き前企業利益の10%相当を労働者に分配)」への課税を可能にするとしている点である。

これらの所得税改革は2006年1月1日より施行される予定だが、これにより賃金労働者、特に中程度以下の所得層の収入に対する影響はかなり大きなものになると予想される。労働者は各年度ごとに、年間7万6000ペソの控除を受けるか、各種手当を免税扱いとするかの選択が義務付けられるが、いずれの場合でも収入は減少するものと見られる。メキシコ自治大学労働者組合リーダーで野党民主革命党(PRD)下院議員のロドリゲス・フエンテス氏によれば、所得税改革は「高所得者層に有利で、中産階級には大きな打撃」、「最低賃金の7倍~27倍を受け取っている労働者にとっては払う税金が高くなり、逆に29倍以上の労働者で減税となる」としている。

6月10日、日刊紙ラ・ホルナーダ紙は、メキシコ電力労働者組合(SME)のロセンド・フローレス書記長の名で「社会手当への課税に反対」と題する声明を掲載している。声明は国会に対して所得税改正の即時撤回を求める内容になっている。

労働者側にとっては、「労働者利益分配」やクリスマス手当、休暇手当などは労働者が長年かけて獲得してきた権利という認識があり、法律でも所得税の免税対象とされてきているもので、これに手をつけることは許せないとしている。また、ただでさえ少ない賃金労働者の収入に更に重くのしかかる課税に反対するだけでなく、企業利益や資本所得への課税を増やし、巨額の脱税や徴税遅延への追及を厳しくすることを求めているとして、このような所得税改革が結局は集団協約に基づく労働者の賃金上昇につながり、そのため正規の雇用創出が打撃を受け、インフォーマルセクターでの雇用増大につながるとの見方も出ている。

下院では第一党で最大野党の制度的革命党(PRI)や民主革命党(PRD)等の野党各党が、7月6日に所得税法改正の撤回を求めるイニシャティブを提出、また各政党代表と労組代表は記者会見を行い、各種手当への課税阻止のため闘う意向を表明した。これには独立系労組の全国労働者同盟 (UNT)、社会保障労働者組合(SNTSS)、メキシコ自治大学労働者組合(STUNAM)をはじめ、多くの労組が支持を表明している。

一方、PRI系の協調組合であるメキシコ労働同盟(CTM)および労働会議(CT)は、同日、全国製造業会議所(Canacintra)、工業会議所連盟(Concamin)、労働者農民革命連盟(CROC)と所得税改革をめぐるフォーラムを開催、所得税改革に反対する労組と企業の「統一戦線」の形成を提案した。このフォーラムにおいても、所得税改革による影響として、労働者の可処分所得の減少、各種インセンティブ削減による生産性の低下、フォーマルセクターでの失業とインフォーマルセクターの更なる肥大、労使紛争の増大、インフレ上昇につながると分析している。フォーラムは9月をタイムリミットとして改正の撤回を要求し、下院における野党各党のイニシャティブを支持していく方向だが、最大労組であるCTMでは組合員の大量動員も辞さない構えである。

一方労働省は、所得税改革が賃金労働者に与える影響について分析した報告を発表、その中で賃金月額が1万4500ペソ~7万1400ペソ(税込み)の労働者の場合、所得税改革により1.5%~9.1%の減収になるとの推計を行っている。また、各労働者が年度の初めに、各種手当を免税対象とするか、それとも手当を課税対象とするかわりに所得の一定額を控除するかを選ばなければならないので、労働者の税額計算が更に複雑になるだけでなく、同じ職種・ポストで働く労働者の収入に差が出てしまうことになりかねない。これは憲法123条および連邦労働法86条に違反する恐れがある。また、最低賃金を受け取っている労働者でも、場合によっては25%までの源泉徴収対象となるため、最低賃金からは一切の減額をできないとした憲法123条および連邦労働法97条に反することになる。

労組SMEおよび国立統計庁(INEGI)労働者連合の研究によると、フォックス政権始まって以来のインフレで購買力は急速に低下しており、最低賃金(1日45.40ペソ、月1390.92ペソ)の購買力は80年代初頭と比べ4分の1になっている。労働省も、過去6年を通じての実質賃金上昇率は平均年0.6%にとどまることを認めている。

しかも賃金労働者を取り巻く状況の悪化は、実質賃金の低下だけにとどまらない。INEGIの報告によれば、フォックス政権開始から2005年7月前半までの期間で、フォーマルセクターにおける純雇用創出はわずか5万2000人余りで、しかもそのほぼすべてが有期雇用である。つまり、メキシコ経済が雇用創出能力を失い、また不安定な有期雇用やインフォーマルセクターの雇用ばかりが増える傾向が強まっているかに見える。所得税改革による労働者の収入への打撃が強い反発を呼ぶ背景には、このような状況がある。

参考レート

関連情報