増加する派遣労働者と制度上の課題

カテゴリー:非正規雇用

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  • 国別労働トピック:2005年8月

労働組合による派遣労働者調査結果

台湾全国独立総工会が最近発表した事例研究調査報告によると、台湾では2000年以来派遣労働者の雇用が増加している。同調査は、シン・リー・ケミカル・インダストリー、ペプシコ・フーズ台湾、フォーワード・グラフィック・エンタープライズ、フォン・ユエ自動車部品会社、シン・サン・シン社など5大企業における派遣労働者の待遇と正社員の待遇と比較したものである。

派遣労働者の増加傾向について、例えば、フォーワード・グラフィック・エンタープライズ社では、4年前から正社員を一時解雇により500人から200人に削減し、派遣労働者を導入しており、現在は正社員4人につき1人が派遣労働者となっている。

労働基準法に基づき法定労働条件に責任をもつ使用者によって労働者が直接雇用される従来の雇用制度と異なり、派遣制度においては、労働者、派遣会社、使用者による三者の関係が相互に作用する。派遣会社は、労働者の月給のうち20‐30%を手数料として徴収するが、派遣労働者は、正社員が享受している雇用保障、福祉または諸権利を派遣会社から提供さることがないと指摘されている。現行の労働基準法の下では、派遣労働者は正社員ではないため、使用者が派遣労働者に責任を負うことは一切ない。

報告書で指摘されている現在の派遣雇用の問題点をまとめると以下のとおりである。

  1. 派遣労働者の平均賃金は同レベルの正社員より3分の1低い。
  2. 派遣労働者は労働保険、健康保険、超過勤務手当などの給付を受ける資格がない。
  3. 使用者は食事代までも派遣労働者と正社員で異なる額を請求する。もちろん、これは派遣労働者の方が正社員より低いことを意味する。
  4. 使用者は派遣労働者に職場の安全を確保するための予防措置を提供しない。すなわち、派遣労働者は安全でない環境で仕事を行い、保険がかけられていないことを意味する。

上記の問題を抱えながらも派遣労働者の雇用が増加する理由は、労働の柔軟性という世界的潮流と、2003年6月30日に公布された労働者退職年金法の影響が説明される。労働者退職年金法は今年の7月1日から発効する。労働組合側は、サービス産業のニーズを満たす目的で労働市場の柔軟性の推進に向けた政府の権限委譲は派遣労働者の雇用の増加を意味し、ひいては労働条件の水準を引き下げていると主張している。2003年9月に経済建設委員会により開催された「全国サービス産業開発協議会」の結論に従い、サービス産業を奨励するという政府目的に寄与することができるように、行政院の管理下にある労工委員会(CLA)は労働市場をより柔軟なものにする目的で、「労働者派遣法」の起草に取り掛かった、と労働組合は考えた。

派遣労働者制度についての政府による最近の取り組み

実際のところ、CLAは現に日本、韓国およびドイツを含む主要国の労働者派遣法を参照した「労働者派遣法」の草稿をすでに準備しており、会議、セミナー、協議会、公聴会も幾度となく開催している。しかし、CLAによると、「労働者派遣法」の草案は、労働の柔軟性の推進に使用するものではない。言い換えるなら、草案は現在の派遣労働者の雇用増加の理由と見なされるべきできなく、むしろ対照的に、草案の主要機能は労働市場における派遣労働者の漸増という状況下で、派遣労働者、派遣会社、使用者の間で規制の役割を果たすために準備されているとCLAは述べている。

すでに労働派遣法の草案はほぼ作成されているが、これまでのところ労働政策に関しては、政府が労働者派遣問題に新しい法律を作成する決定を下すか、現行の労働基準法の関連条項を改正するにとどめるのかまだ明確でない。現状の主要な背景は、長期間に及ぶ議論の末でも、労働者派遣法を作成するか否かについて、使用者、労働組合、派遣会社、学者の間でも未だに異なる意見が存在する。現在CLAは、近い将来の問題を討議するための台湾の新しい公共政策のメカニズムとして、いわゆる「市民会議(Civil Convention)」を準備している。結論は労働派遣雇用制度に決定的な役割を果たすものとみられる。

現在、派遣労働者は20万人(雇用人口全体の約2.5%)で、そのほとんどはサービス部門で働いていると推定されている。労働者退職年金法の実現により、その数は年末までに30万人に達すると予想される。労働者退職年金法が公布されて以降、派遣労働者の数が増加している理由としては、使用者の負担が軽減されることによるところが大きい。同法の施行によると、第7条を根拠に労働基準法の対象となるすべての国内被用者は同法に従わなければならない。また同法の第3条に従い、条文で言及される「被用者(employee)」は、労働基準法の第2条で定義されているものと同じ意味をもつものとされる。労働基準法第2条における「被用者」とは、「賃金が支払われる仕事をする目的で使用者に雇われる人」をさす。すなわち、使用者は、賃金を派遣労働者に間接的に支払うことから、使用者は派遣労働者を直接雇用することにはならず、そういった派遣労働者のために使用者は毎月個人年金を支払う必要はないということになる。

体系的で効果的な労働者派遣制度が検討されて久しいが、制度が確立される以前に、労働条件は悪化し、労働市場状況も悪化するのではないかと現状が懸念されている。

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