労働時間をめぐる最近の動き

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  • 国別労働トピック:2005年8月

EUの労働時間指令からの適用除外を意味するオプト・アウト の廃止などを内容とするEU労働時間指令の修正案採択をめぐっては、英国をはじめとするオプト・アウト(注1)廃止反対派とフランスなどの廃止派が激しく対立している(注2)。今後の欧州委員会における閣僚承認に向けて各国の動きが活発化する中、英国内においては労使による議論が高まっている。

使用者側はオプトアウト維持を主張、労組は反発

「英国管理者協会(the Institute of Directors)」はこのほど、「ポーランド使用者連盟(Confederation of Polish Employers)」と共同報告書を発表した。報告書は、EUが中国などの新興経済国と競合するためには、柔軟な労働市場を維持することが不可欠と主張している。また、「求人・雇用連盟(Recruitment and Employment Confederation)」は、「柔軟な労働時間は使用者と労働者双方にとっての利益であり、良好な経済パフォーマンスと低い失業率を維持する最も有力な要因となっている」と論じるなど、使用者側はオプトアウトを維持することが英国の利益につながるとの主張で一貫している。

これに対して、一方の労働側は使用者側の主張に真っ向から反発。「英国労働組合会議(TUC)」のブレンダン・バーバー書記長は、サービス残業の増加など労働環境の悪化を指摘しており、これ以上の後退はEU全体の労働者にも悪影響を与えるとしてオプト・アウトの廃止を訴え、この件に関しては使用者側の主張を優先している政府の姿勢にも批判を投げかけている。

メンタルヘルスの面からも労働時間の見直し必要

財政当局は、就労不能給付(注3)の受給者数の増加に不安を募らせている。低失業率にもかかわらず、現在、受給者の総数は270万人、年間費用は77億ポンドに達しているからだ。先月発表された政府の改革案は、給付金の削減を含む。しかし費用の増大は、使用者が労働者のストレスと心の病の原因に取り組む措置を十分に講じてこなかったことが原因とも指摘されている。

現在、ストレスと心の病に関する対策費用は、そのほとんどが政府の手に委ねられているのが現状。労働時間、仕事を効率化する方法、仕事量のプレッシャーなどの要素を把握し、これらに係る関連費用の削減に関して使用者が果たさなければならない役割は充分に認識されていない。特に労働時間とストレスの関係は因果関係が深いといわれており、労組側はそうした面からも、長時間労働を放置する使用者側を批判している。

企業も労働者のメンタルヘルスは優先課題と認識している。しかし、実際に何らかの指針を持つ企業は少ない。英国産業連盟(CBI)は、精神的な病により失われる労働日の数は労働紛争の30倍であると見積っている。さらに、心の病を持つ人々の5人に4人は失業していて、あらゆる障害グループの中で最も雇用の可能性が少ない。そして労働不能手当を受給している260万人のうち5分の2が心の病によるものである。

雇用年金省が行う「就労への道(Pathways to Work)」は、彼らが取り組むことの可能な仕事の種類を特定し適切な仕事を見つける援助が得られるようにする精神疾患を持つ労働者のためのプログラム。プログラムの実施で、給付の受給を不要とする者の数が50%増加したとする報告もある。この事は、適切な支援により精神的な病の人々が、実際に就労できる状態に戻れる可能性が十分にあることを示す事例であると期待されている。

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