労働党政権の混乱

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  • 国別労働トピック:2005年8月

労働党と労働党政権内部の閣僚クラスのスキャンダルが明るみに出て、不正資金作りが大規模に行われていたとする告発がメディアを賑わせている。対応に追われる労働党は、党首以下主要役員が辞任、政府内部でも、大統領府官房長官、政策調整長官、科学技術相、社会保障相、教育相、労相などが相次いで辞任に追い込まれる事態となった。

7月15日に就任した新労相は、ルーラ政権に入って3人目となるルイス・マリーニョ氏(46才)。ルーラ大統領と同じく、サンパウロ首都圏サンベルナルド市の金属労働者としてスタートし、CUT(中央統一労組)傘下の金属労組委員長を経て、全国CUT委員長を歴任した。労働党と近いCUTからは、これまでも多数の幹部が政府中枢部に起用されてきているが、さらに労働大臣にもCUT委員長が就任したことで、労働行政におけるCUTの支配色がより強まるとして、CUT以外の労組及び労働者は警戒心を募らせている。こうした声に対し新労相は、「CUTのみに限定せず、全ての労組全ての労働者との対話を維持する。CUT委員長としての労相ではないので、安心して欲しい。」と挨拶、ルーラ大統領も「彼はCUTの利益を擁護するための労働大臣として就任したわけではないことを理解している。労組思想と大臣職の調和を目指し労相の任務を立派に遂行できると信じている。」とこれを援護射撃した。CUTは当初、新労相の就任式に合わせ全労組代表が首都ブラジリアに集結して新労相支持行進を行う計画を立てていたが、CUTと競合するフォルサ・シンジカルなど他の労組はこれに反発、参加を拒否した。

ルイス・マリーニョ労相は就任演説で、「まずは最低賃金の引き上げを最大目標とするが、経済閣僚と対決する考えはない。適切な最低賃金を実施するために、調和ある行政を行う。」と発表した。ルーラ政権は就任以来、最低賃金を引き上げようとする労組や労働党の政治圧力と、財政再建を目指す経済官庁との対立の狭間で、その調整に苦慮してきた。新労相がこうした両者の利害を調整し、調和ある行政を行えるか否かは未知数だ。

新労相はまた、政府高官と労働党が起こした今次不正資金作りスキャンダルにより中断している組合法改正案の国会審議再開を優先する意向を示した。改正案には労組役員が主張している提案を組み込む考えであるが、労組委員長時代の考えとは違った視点で、提案を纏めると話している。

そもそも政府は、組合法改正と労働法改正を並行して進めようとしていた。しかし、度重なる政治危機のために、実現可能性が大きいと考えられていた組合法改正でさえ、いつまでに国会審議が終了するかの見通しは立たっていない。より議論が対立している労働法改正に関しては、現政権下における実現可能性は極めて低いと政府自体が認め始めている。

新労相は、労働法改正の政労使代表による労働フォーラムの中でも、CUT委員長として企業家を最も刺激する発言で知られてきた人物。こうした人物の登場で、新労相の言葉とは裏腹に、労働法改正の可能性はまた一段と遠のいたと見られている。

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