労使関係改革法案をめぐる動き
連邦政府が発表した労使関係改革法案をめぐり、労使の動きが活発化している。政府は改革の正当性を訴え広報キャンペーンを展開しているが、BCE(豪ビジネス・カウンシル)及びAIG(豪産業グループ)など経済界は概ね歓迎しているものの、労組ACTU(豪労働組合会議)は、全国各地で大規模なデモやストライキを行うなど改革案に反対した激しい抗議行動を展開している。
政府の目論見
政府は法律制定のタイムテーブルについて、主な法案を9月から10月にかけて通過させる目算をたてているが、これは組合に新制度が適用される前に新たな合意を結ぶよう使用者に圧力をかけさせるという事態を招いた。ビクトリア州の建設業界など、一部にこうした圧力に屈する使用者が出始めている。政府はこうした事態を憂慮、法案の早期実現を切望している。
しかしながら一部の識者は法案の通過は当初考えられていたほど簡単ではないと分析している。理由は、政府が上院で圧倒的な過半数を占めていないこと。これに加え、「改革法案は労使関係に関わる州の権限を奪い、中央政府にその権限を集中させるという提案であり、十分確立された自由主義の原則に反する」と主張する上院議員が少なからずいることもその根拠となっている。事実、自由党か国民党かを問わず、多数の上院議員がこの法案に反対投票する可能性を仄めかしている。法案成否の行方はますます混沌としてきた。
法案をめぐる広報バトル
政府は、「改革はオーストラリアに繁栄と国際競争力をもたらし、雇用が増え賃金は上がり労働者にとっても有益」といった内容の広報キャンペーンを行った。これに対抗しACTUは「改革後は簡単に解雇されるようになる」などと主張した広報を行い、労働者の不安を煽っている。専門家によると、この一連のバトルはどうも政府の方の分が悪いようだ。政府が、賃金は上がると広報する一方で、職場関係大臣が「最低賃金は本来あるべき額より約50ドル高い」と発言したことも印象を悪くした。世論からは、政府の広報は「脅しキャンペーン(scare campaign)」だと受け取られている。オーストラリア・ファイナンシャル・レビューが6月に実施した調査によると、回答者の54%が不公正解雇法の改正案に反対を表明している。
各地で抗議集会
こうした中、労組を中心とした抗議運動は各地で激しさを増している。ニューサウスウェールズ(NSW)では、労働党党首キム・ビーズレイが保育所を訪れ「改革により保育所職員の給与は約50ドル低くなる」と訴えた。西オーストラリアでは、改革は「労働者の職場権利の弱体化、柔軟性の促進、社会的不平等の拡大、生産性の低下」などにつながるとしたメッセージの下大規模なストライキが行われた。これは時の経過とともに拡大し、首都メルボルン、パース、ブリスベン、アデレード、ホバートなどで約11万人と推定される行進に発展した。
労組の存在感増す
法案をめぐりますますエスカレートする議論だが、これは一面で労組にとっては存在をアピールするチャンスにもなっている。ACTUは6月に入り5月と比べコールセンターが受けた電話が150%増えたと発表した。そのほとんどが、差し迫った労使関係改革について懸念し、自分の身を守るために組合に加入しようとしている人からのものであったという。ACTUは運動に関する情報をさらに普及させるために、ウェブサイトyour rights at workを開設した。8月には大規模なイベントも計画している。行方がわからなくなってきた労使関係改革法案。しかし組合にとっては、組織化に悩む他の先進国の労組を尻目に、労働組合の存在感をアピールできる千載一遇のチャンスともなっているようだ。
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