タイ農村における一村一品運動(OTOP)の導入と農村経済と家計の変化

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2005年7月

OTOPの概要と現状・問題点

タイでは、愛国党(タイ・ラック・タイ)の党首であるタクシン首相が、農村の活性化と所得向上を選挙公約として掲げ、2000年に首相に就任するとその直後からOTOPを重点政策として推進し始めた。その公式の目的は、「農村にすでにある資源と伝統の知恵や技術を生かし、商品の生産および販売によって農民の所得向上を図り、農村部の振興を目指す」というものである。

OTOP製品はOTOP全国委員会の評議会によって毎年ランク付けがなされる。1から5段階の星が与えられ、中には日本や欧米への輸出に成功した製品もあり、そのため海外のバイヤーも対象としたOTOP展示会が各所で開催されている。

2004年末の時点で内務省に登録されているOTOP製品の数は3万7754点(そのうち5つ星612点、4つ星1215点、3つ星1156点)に上る。全国の総タンボン数(注1)は、2000年の人口センサスによると7254なので、平均すると1タンボン当り約5つのOTOP商品が登録されていることになる。売上高は460億バーツで、GDPの約1%を占めている。そのうち輸出品として出荷されたOTOP製品の売り上げは100億バーツであり、それはタイの総輸出額の0.5%に当たる。

首相府のマスタープランによると、初期のOTOP政策の目的として、1)多様な地元の経済活動の活性化、2)地元の雇用機会の創出、3)地元の所得向上と生活水準の向上、4)都市から地方への「Uターン」の促進(特に若年労働者)、5)住民参加と創造性とビジネスマインドの促進、の5点が挙げられており、その後、4年間のOTOP政策が「成功」であったとして、次の5点が付け加えられた。6)地元の資源・人材・文化・歴史条件を最大限に活用すること、7)地元民による自助努力を支援すること、8)市場主義で付加価値のある商品を作り出すこと、9)環境に優しく商業的に持続可能な商品を生み出すこと、10)Step-by-Stepアプローチ(初期段階は地元や地方の市場をターゲットに、最終的には輸出向けの国際市場をターゲットにする)。

問題点としては、政府は今後のOTOP政策について、量的拡大から品質向上や効率化に重点を移していくことを表明しているが、逆に言えば、OTOP市場がすでに伸び悩んでいるということであり、低品質の問題が深刻化している証拠ではないかと考えられる。

OTOP商品の生産は、農業・農業協同組合銀行(BAAC)やタイ・イスラム銀行、ビレッジファンド(100万バーツ基金)などからの融資を受けることが可能。一村一品運動はタイだけにとどまらず、韓国や中国の他、マレーシア、フィリピン、タイ、カンボジアなど他のアジア諸国にも広がっている。タイの一村一品運動は、経済効果としては極めて小さいにもかかわらず、タクシン首相の巧みな宣伝手法によっていかにもタイの農村経済に大きな効果をもたらし、大きな成功を収めているかのように見える。しかし、この政策が本当の意味での成功を各村にもたらしたかという点に関しては評価が分かれるところだ。

OTOP製品の競争激化と価格低下

ここ数年、バンコク周辺地にて全国のOTOP製品を展示するフェアが年に2度ほど開催された。タイはもとより世界各国のバイヤー達が多数来場し、厳しい目にさらされている。各町村の生産グループではこういったフェアに製品を出品することができるが、例を挙げればある生産グループは2003年のフェアでの売り上げが50万バーツの売り上げであったのに対して、2004年は15万バーツに減少した。これは、OTOPの出品点数が増加して競争が激しくなったことに原因があると見られている。また、類似品の生産増加によって製品の価格低下も問題となっている。対応策として、村の生産リーダー達はインターネットでの販売や新しいデザインなどの開拓なども考えているが、それらを指導してくれる技術者や支援がないことが問題。

OTOPの政策が当初開始されたときには、伝統的なタイの手工芸品やハーブ製品などが4つ星や5つ星を取り、高い売り上げを誇っていた。OTOP商品の中には成功したように見えていても、それは実は長い歴史をもつ地方の産品をただOTOPという名前に付け換えて売り出したものも多く含まれる。OTOPが始まってまだ数年しか経過していないことを考慮すると、市場で正当に評価されるような商品がOTOPによって生み出されるとは考えにくく、OTOPの成功例として取り上げられている商品のかなりの部分がそれ以前からすでに市場での評判が確立した商品であったと考えられる。

最近の傾向として、大学卒や留学経験のある強いリーダーシップを持った生産リーダーの指導の下、短期間で5つ星を取るような製品・村も現れるようになってきた。こうしたリーダー達は、市場のニーズや需要を的確に読み取り、生産方法や流通などにもコンピューターやインターネットなどを積極に取り入れ、意欲的な生産を行っている。従来の長い生産の歴史によって優先権を得ていた村が、新しい技術を持った村と同じ市場原理で競争を強いられることにより、長い伝統をもった製品が衰退していく恐れも一方で懸念されている。

出所

  • 海外委託調査員:武井泉

引用文献

  • Japan International Cooperation Agency:JICA(2003) “The study of Monitoring and Evaluation Model on the One Tambon One Product Development Policy” Final Report.
  • National Statistic Office (NSO),“Report of the Socio-Economic Survey “, various years.
  • OTOPホームページ

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