病気欠勤日数を休暇と相殺
―ドイツ手工業会議所が主張

カテゴリー:労働条件・就業環境労使関係

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  • 国別労働トピック:2005年7月

ドイツ手工業会議所(ZDH)のO・ケンツラー会長は6月19日、病気欠勤した日数に応じた有給休暇日数の削減を、今後労働協約に盛り込むべきだと主張し、労働組合や政党などに波紋が広がった。ドイツでは、有給休暇とは別個に、病気欠勤に対して最大6週間の賃金保障がなされ、有給休暇と病気欠勤を結びつけるケースは例外的だ。ZDHの提起については、労働組合から反発が出ただけでなく、現在のところ政党の支持も得ていない。しかし労働者に対する手厚い保障に対して、中小企業経営者層を中心に見直しを求める声は根強い。

ケンツラー氏は病気欠勤日数と休暇日数の相殺を「絶対に必要だ」と主張。同氏の「企業は有給休暇と病気欠勤の両方の面倒を見なければならない」「小企業は、従業員が長い病気欠勤の後に有給休暇をフルに請求しても、その要求を満たすことが困難だ」といった発言からは、従業員の病気による労働日数の損失を企業が負担している現状への反発がうかがえる。

同氏の想定する方法は、必ずしも病気欠勤日数と休暇日数の1対1の相殺ではない。ドイツでの例外的なケースとして、バイエルン州のケーキ製造販売業の労働協約では、病気欠勤5日につき有給休暇を1日減らし、有給休暇の削減日数は年間3日までに押さえられている。このような労働協約を普及させたいという意向だ。

しかし、この提起は、労働組合はもとより、日程が1年早められ今年9月に予定される総選挙を前に、与野党を問わず主な政治家からも批判を受けている。社会民主党(SPD)のH・アイヒェル蔵相は「意味のない提案だ」とし、「そのような社会的な条件切り捨てはいいかげんにしてほしい」と批判。野党側の次期首相候補であるキリスト教社会同盟(CSU)のA・メルケル党首、同党と協力関係にある自由民主党(FDP)党首G・ヴェスターヴェレ党首らも、ZDHの考えを支持していない。

ヴェスターヴェレ氏は、「休暇は休暇、病気は病気であり、その相殺は意味がない」としつつ、「もし使用者側が有給休暇を減らす合意をしたいのなら、それをはっきり口にするべきで、奇策を用いるべきではない」と述べている。使用者側の「真意」については、F・ブジルスケ公共サービス労組(Ver.di)委員長も「労働時間延長の意図」が背後にあると見ている。

このように、ドイツでは「休暇は休暇、病欠は病欠」という考え方は一般的にコンセンサスを得ているといってよい。私傷病でも6週間にわたり賃金を100%保障する仕組みは「賃金継続支払法」に定められており、先進国の中でも労働者に手厚い保障制度である。賃金保障については、コール政権時代の1996年に「賃金の80%」に変更されたが、第一次シュレーダー政権発足直後の1999年から「100%保障」に戻されている。最近は景気低迷や雇用不安から病気欠勤の申請件数も減少しており、たとえば健康保険対象者の年間平均病欠日数は、95年に5.1日を記録してからほぼ減少傾向が続き、04年には3.4日まで低下している。

このような状況から、ZDHの提起がすぐに実現する可能性は現段階では低いといえる。しかし病気欠勤のコストを負担する使用者側の反発は根強い。ドイツ商工会議所(DIHK)のM・ヴァンジーベン氏は「風邪のような取るに足らない病気の場合、今後は従業員の欠勤に対して賃金を払うべきではない」と述べ、ZDHの提起を支持している。

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