連邦政府、予算案で福祉制度改革を発表
2005年5月、2005/2006年度の連邦政府予算案が発表された。所得税減税と並ぶ目玉といえるのが福祉制度改革。改革案には社会保障の受給要件の厳格化などが盛り込まれ、政府の「福祉から就労へ」という政策姿勢が色濃く反映された内容となっている。
予算案の概要
失業者救済プログラム「ニュー・スタート」にかかる改革案
オーストラリアにはわが国の「雇用保険」に相当する制度は存在しない。失業中の所得保障としては、全額国庫負担による社会保障給付「ニュー・スタート」が支給される。給付に関する認定・支給事務は、政府機関であるセンターリンク(Centrelink)が行なう(注1)。
現行制度では、受給者が2週間につき63豪ドルを超えた所得があった場合、超過分1ドルにつき50セント削減される。142豪ドルからは70セント、650豪ドル以上の場合手当は支給されない。予算案では、2週間につき250豪ドルの所得まで削減率50セントが適用され、それ以降の削減率は60セントとなり、給付が完全に相殺されるまでに、受益者は750豪ドルの所得を得ることが可能になる。
単身の親向け手当にかかる改革案
離婚率の高まりを受けて、単身の親(シングルマザー、シングルファーザー)の数が急増している(図1参照)。これを受けて単身の親に給付される手当(Parent Payment)受給者も増加していた。(注2)予算案では、失業した単身の親向け手当の受給要件に求職義務(末子が6歳になった時点でパートタイムの仕事に就く)が追加されたほか、要件を満たさない者については、「ニュー・スタート」への移行を含めた給付金支給停止措置がとられることになっている。また、提供があった職に就かない、もしくは面接に現れなかった場合には給付金(2週間につき44豪ドル)が削減される。
障害者向け手当にかかる改革案
障害支援年金(Disability Support Pension:DSP)は、「ニュー・スタート」と比較して、受給要件がゆるやかでかつ給付内容も良いため、障害者と偽って手当てを申請する者があとを絶たなかった。今回の予算案には障害程度がより厳密に審査され、週15時間働くことができないことの実証などの不正受給防止策が盛り込まれた(注3)。
条件 | 保障額/2週間 |
---|---|
単身・子どもなし | $399.30 |
単身・子どもあり | $432.00 |
単身・60歳以上 | $437.80 |
パートナーあり | $360.30 (1人あたり) |
出典:センターリンクウェブサイト
図1:離婚数の推移
出典:統計局ウェブサイト
条件 | 保障額/2週間 |
---|---|
単身・18歳未満・同居 | $271.10 |
単身・18歳未満・自立 | $418.90 |
単身・18-20歳・同居 | $307.30 |
単身・18-20歳・自立 | $418.90 |
18歳未満パートナーあり | $397.70 |
18-20歳パートナーあり | $397.70 |
単身・21歳以上/21歳未満子どもあり | $476.30 |
パートナーあり・21歳以上/21歳未満子どもあり | $397.70 (1人あたり) |
出典:センターリンクウェブサイト
注
- 失業給付については、失業期間が長期化しても給付水準が下がらないこと、支給期間に上限がないことなどが失業者、特に長期失業者の就業インセンティブを弱めているとの指摘があった。(経済企画庁『平成12年度世界経済白書』)「ニュー・スタート」を受給するには、使用者と最低1日1回接触し、その際の状況を「失業手当日誌」に記録しなくてはならない。
- 非就労の親に対する給付の中で単身の親は給付額が高いとされている。(柳澤房子・井田敦彦「OECD諸国における失業時の生活保障関連一覧」)
- DSP受給要件変更の対象となるのは2006年7月以降の申請者で、現時点での受給者には影響が及ばない。これにより新規申請者は格段に厳しい要件を満たさねばならなくなるため「2層式の」障害者支援制度を生み出すと指摘する専門家もいる。
参考レート
- 1豪ドル=83.64円(※みずほ銀行ウェブサイト2005年7月5日現在)
関連情報
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