労働時間指令の改正案をめぐる論議

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  • 国別労働トピック:2005年6月

2005年5月、欧州議会は、欧州委員会が2004年9月に発表した労働時間指令改正案の第1読会において討議を行い、いくつかの修正を加えた改正案を採択した。6月2日の雇用社会問題相理事会は、欧州議会の決定を踏まえ欧州委員会が作成した妥協案に関する討議を行ったが、意見の隔たりが大きく結論は先送りとなった。

現行の労働時間指令は、1)24時間につき最低連続11時間の休息期間を付与、2)6時間を超える労働日につき休憩時間を付与(付与条件は加盟国の国内法や労使協定で規定)、3)7日ごとに最低連続24時間の週休及び11時間(1日の休息期間)の休息期間を付与、4)1週間の労働時間について、時間外労働を含め、平均週48時間以内の上限を設定(算定期間は4カ月)、5)最低4週間の年次有給休暇を付与、6) 労働者個人の同意に基づく週48時間労働制の適用除外(オプト・アウト)を規定――などを内容としている。

欧州委員会は、2004年9月、現行労働時間指令の改正案を発表した。改正案の内容は、1)週48時間労働制の適用除外要件に労働者本人の同意のほか、団体交渉による合意を加える、2)待機時間(On-call time)のうち、実際に仕事をしていない不活性待機時間(Inactive parts of on-call time)を、国内法で規定しない限り、労働時間に算入しないことができる、3)労使協議に基づき、週平均労働時間の算定期間を4カ月から最長1年に延長できる――などである。

その後、2005年5月11日、雇用社会問題相理事会において数度にわたりこの問題に関する討議が行われたが、加盟国間で大きな意見の相違があり、合意に達しなかった。

欧州議会は、欧州委員会の改正案に対し、1)週48時間労働制(時間外労働を含む)のオプト・アウトを新指令施行後3年間で徐々に廃止、2)「不活性待機時間」は、特別の場合を除いて、労働時間に算入、3)週48時間制の算定期間を4カ月から最長1年に延長する際の条件をより詳細に規定(労働者代表又は労働者との協議、健康配慮義務など)、4)労働者の生涯学習機会、仕事と家庭の両立、労働時間の柔軟化への配慮――などの修正を決議した。

欧州議会は、「制限のない労働時間制は、労働者の健康と安全だけでなく、仕事と家庭の両立に深刻な危険を及ぼす」として、オプト・アウトの維持に反対した。欧州議会の修正案が正式に成立するためには、雇用社会問題相理事会の承認を得る必要がある。

欧州労連(ETUC)は欧州議会の決定を歓迎し、「理事会と欧州委員会に対し、今がオプト・アウトに終止符を打つべき時であるとの明確なメッセージを送った」と評価した。欧州産業経営者連盟(UNICE)は、労働時間の柔軟性を縮小させる改正案の修正は、欧州の「成長と雇用」を促進するためのリスボン戦略に反するものであるとして、落胆を示した。とりわけ、週48時間労働制のオプト・アウトの廃止に強く反対し、団体交渉もしくは本人同意に基づく適用除外を明確に規定すべきであると主張した。

従来からこの適用除外を広く活用してきたイギリスは、ブレア首相が「世界の新興経済との競争に直面している欧州経済には、柔軟性を諦める余裕などないはずだ」と特例規定の廃止に全く同意できない旨を表明した。

欧州議会の修正案を踏まえ、欧州委員会はオプト・アウトの廃止などを盛り込んだ指令改正の妥協案を作成した。6月2日に開催された雇用社会問題相理事会は、この修正案に関する討議を行った。しかし、選択の自由と経済成長のためにオプト・アウトは断固維持すべきであるとする加盟国(イギリス、ドイツ、ポーランド、オーストリア、ハンガリー、マルタ、キプロスなど)と、算定期間の1年間への延長により柔軟性は十分確保されておりオプト・アウトはもはや正当化できないとする加盟国(フランス、ベルギー、スウェーデン、スペイン、ギリシャ、フィンランド、リトアニアなど)との間の意見の隔たりが大きく、議論は先送りとなった。

理事会の討議について、欧州労連のジョン・モンクス書記長は、「理事会が欧州議会の決定を踏まえた妥協案を採択する勇気を欠いていたことに非常に落胆した」と述べた。欧州産業経営者連盟は、欧州委員会の修正案に盛り込まれた、1)新指令施行後3年間でオプト・アウトを廃止する、2)EUレベルの週労働時間の算定期間の基準を廃止し、加盟国が厳格な条件(労使協議、健康安全配慮義務など)に基づき12カ月を上限とした算定期間を定めることができるようにする――の2点に反対を表明した。

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