英国労働組合会議、ユニオン・アカデミーの創設を発表

カテゴリー:労使関係人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2005年5月

ニートの増加など若者の失業問題は、経済が比較的順調に推移している英国にとっても頭の痛い問題。他方、グローバル化に伴い市場競争は益々激しくなっており、人的資本の付加価値をいかに高めるかが重要な政策課題。ケリー教育技能相は「英国はもはや、競争力の確保を雇用市場に新規参入する若者に依存できなくなっている」と述べ、既存労働力の能力向上が必須との考えを示している。

こうした中、英国労働組合会議(TUC)は「すべての従業員に職業教育・訓練を」(Training for all employees)というスローガンに基づき、2005年3月、現行の「労働組合学習代表制度(Union Learning Representative )」を拡大するとともに、新たに「ユニオン・アカデミー」を創設すると発表した。同アカデミーは労働者が教育・訓練に関して最初のコンタクトを取る単一窓口となる。なお政府も、創設にあたり450万ポンドの政府資金を投入するなど、こうした動きを後押しする方針だ。

能力開発政策における組合の存在感高まる

「労働組合学習代表制度」とは、学習代表とよばれる担当者が企業に対して従業員向けの職業訓練の実施の働きかけなどの仲介を行うもの。また学習代表は個々の労働者に対する助言も行うなど、企業と教育・訓練機関を結ぶパートナーシップの役割も果たす。同制度は1998年の創設以来約10万人の従業員に対して実績を上げていることから、学習代表は現行の8000人から2万2000人に増員される予定だ。

一方、このたび新設される「ユニオン・アカデミー」は、e-ラーニングシステム「ラーンダイレクト」を含む教育・訓練課程を設計し、労働者に対する窓口機能を担う。ウエブサイト上のヘルプラインを通じて利用者は支援サービスを受けることが可能となる。また、同アカデミーは職業教育・訓練に関するシンクタンクの機能も果たすことから、政府が労働者のための適確な能力開発政策を策定する際の中心的な役割を果たすことも期待されている。

政府は、教育・訓練政策の改革を進めており、2005年3月に発表された『技能白書』(Skills White Paper 'Skills: Getting on in business, getting on at work' )においても企業向け訓練(NETP:National Employer Training Programme)が特に重要と位置づけられている。「労働組合学習代表制度」や「ユニオン・アカデミー」は、従業員の訓練ニーズの把握を苦手とする小規模企業の従業員を職業訓練に取り込むことが可能と見られており、政府はこうした労組の取り組みを支援することにより、既存労働力を向上させることが狙いだ。2012年までにすべての雇用の3分の2において大卒同等以上のレベルが必要になると予想されていることから、ケリー教育技能相は、職業訓練プログラムの経済面における効果を強調、「労働組合学習代表制度」や「ユニオン・アカデミー」を多くの労働者が利用することにより、英国の労働者が過当な市場競争に見合うスキルを身に付けることに期待を寄せている。

国内労働者の生涯職業能力開発を重視

2005年に入り英国の移民政策は、熟練労働者を積極的に受け入れる方針を示す一方で、非熟練労働者に対しては移入を制限する意向を明らかにしている。従来外国人労働者に対しては比較的寛容と評されてきた英国だが、こうした路線転換は、英国が市場競争で生き残っていくためには、技術・技能を持った人材の不足に際して外国人労働者への依存を強めるのではなく、英国民自身の生涯にわたるエンプロイアビリティーを高めて対応すべきという国民世論が背景にある。

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