在宅保育労働者の組織化進む

カテゴリー:労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2005年5月

経済のダウンサイジングの影響を受け、低賃金、長時間労働を強いられる反面、社会保障、福利などの恩恵を受けることができない保育労働者が増え続けている。その多くは、マイノリティーの人々で、低コストの労働力として在宅保育などに従事している。全米サービス従業員労働組合(SEIU: Service Employees International Union)はこれらの労働者の組織化運動を強力に推進している。

4月7日、SEIUイリノイ州支部は4万9000人の保育労働者の加入を表明した。これは、米国仲裁協会(American Arbitration Association)(注1)により実施された郵送投票の結果を受けたもので、82%がSEIUへの加入を支持、16%がアメリカ州群自治体従業員組合連合(AFSCME:American Federation of State, County and Municipal Employees、)を支持、2%が労働組合への加入を支持しないというものであった。最終的にSEIUが組織化に成功した。

これら保育労働者は、州により運営されている低所得および中間所得世帯への保育サービス(州政府と連邦政府が資金を出す)に従事しており、およそ20万人の子供がこのサービスを受けている。しかし、保育労働者自身は、連邦や州が法律で定める労働者から外れるため、政府に対して交渉権を持っていなかった。保育労働者の平均時給は、9.48ドルである。今回のSEIUの組織化により、かれらの労働条件の改善と保育環境の改善のための期待は高く、SEIUイリノイ州支部は、国からの保育費用補助の拡大、保育労働者の労働条件の引き上げ、医療保障の実現などを今後重点課題に取り上げていく方針である。

4万9000人規模の組織化の成功は、イリノイ州の労働組合運動において過去最大であり、全米でみても、1999年にカリフォルニア州でSEIUが7万4000人の介護労働者を組織化しているが、それに次ぐ大規模なものである。今回の組織化によりSEIUイリノイ州支部は16万人の組合員を抱えることになり、イリノイ州最大の労働組合となった。

イリノイ州における保育労働者の組織化の成功は、SEIU労組の10年間にわたる活動の成果といわれるとともに、ブラゴビッチ州知事が今年2月に保育労働者の組織化の権利を認める命令を出したことが大きな契機となった。この州知事命令は、当初SEIUとAFSCMEとの間で管轄をめぐり激しく衝突する事態を招くこととなった。結局、この争いは、ナショナルセンターであるアメリカ労働総同盟・産別会議(AFL-CIO)が、SEIUの組織活動の実績とブラゴビッチ州知事の支持を理由に、「SEIUが唯一交渉権を持つべきである」組織と判断、支持したことが、郵送投票の結果に反映され、事態は沈静化した。組織化された保育労働者の次の目標は、交渉委員会を選出し、州との交渉を始めることである。

現在、保育労働者の組織化運動は全米各地で行われており、カリフォルニア州、メリーランド州、マサチューセッツ州、ミシガン州、ミネソタ州、ニュー・ジャージー州、オハイオ州、オレゴン州、ペンシルバニア州、ロード・アイランド州、ワシントン州、ウイスコンシン州において進行している。今回のイリノイ州の勝利がこれらの州での組織化を促進させる可能性は高い。

参考文献

  • Chicago Tribune. “Union for child-care workers.” April 8, 2005
  • SEIU “More than 49,000 Illinois child care providers choose SEIU as their union to prove services for 200,000 children.” April 7, 2005
  • New York Times. “Illinois victory caps effort to unionize.” April 8, 2005
  • BNA”Daily Labor Report” April 8, 2005

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